- 著者
-
岩科 司
松本 定
- 出版者
- 国立科学博物館
- 雑誌
- 国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, pp.67-73, 2006
アマギカンアオイHeterotropa muramatsui (F. Maek.) F. Maek.は伊豆半島に準固有のウマノスズクサ科の植物である.この変種シモダカンアオイH. muramatsui var. shimodana F. Maek.は伊豆半島先端の須崎半島にのみ自生している.またもう一つの変種タマノカンアオイH. muramatsui var. tamaensis (Makino) F. Maek.は関東地方の多摩丘陵を中心とした地域に分布している.これらの変種のうち,タマノカンアオイは独立した種,Asarum tamaensis Makinoと考える立場もある.本研究では,これらの3変種をフラボノイドを指標とした化学分類学的手法によって検討を行った.各種クロマトグラフィーによって分離されたフラボノイドは7種類で,UV吸収スペクトル,加水分解とその生成物の定性,質量スペクトル,ペーパークロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーによる基準標品との直接の比較などからそれぞれ,chalcononaringenin 2', 4'-di-O-glucoside (1), kaempferol 3-O-rutinoside (2), kaempferol 3, 4'-di-O-glucoside (3), kaempferol 3-O-rhamnosylglucoside-4'-O-glucoside (4), quercetin 3-O-rutinoside (5), isorhamnetin 3-O-glucoside (6)およびisorhamnetin 3-O-rutinoside (7)と同定された.これらのうち,1はすでにアマギカンアオイ,シモダカンアオイ,タマノカンアオイから報告されており,また2, 5, 6および7についてもカンアオイ属植物から分離されているが,3と4はこれまでウマノスズクサ科では報告されていない化合物であった.アマギカンアオイ,シモダカンアオイおよびタマノカンアオイを二次元ペーパークロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーによってフラボノイド組成を解析したところ,これらは質的にまったく同一であり,化学分類学的にはこれらの変種は同じ種類と考えられた.