著者
水野 貴行 中根 理沙 貝塚 隆史 石川(高野) 祐子 立澤 文見 井上 栄一 岩科 司
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.237-245, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
35

赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’(Allium fistulosum ‘Hitachi-benikko’)は地下部の葉鞘が鮮やかな赤色を呈する長ネギで,茨城県北 部城里町(旧桂村)圷(あくつ)地区で栽培される地方野菜から育成された.本研究では,赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ において,地下部のアントシアニンとフラボノールを同定するとともに,総ポリフェノール量と抗酸化能を測定し,抗酸化食品としての有用性を調査した.その結果として,赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ のアントシアニンとフラボノールについては,1種類の新規化合物(Cyanidin 3-O-(3″-O-acetyl-6″-O-malonyl)-glucoside)を含む4種類のアントシアニンと5種類のフラボノールを単離し,化学および分光分析により同定した.新規のアントシアニンは ‘ひたち紅っこ’ の地下部における主要アントシアニンであった.フラボノールについては,単離した4種類がいずれもQuercetinを基本骨格としていた.また,総ポリフェノール量と抗酸化能を測定した結果,赤色の地下部は,‘ひたち紅っこ’ の地上部や,白ネギ品種の地上部および地下部と比べて,高い総ポリフェノール量と抗酸化能(H-ORAC)の値を示した.これらの結果は赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ において,食品の機能性の面から付加価値を与えると考えられる.
著者
岩科 司 松本 定
出版者
国立科学博物館
雑誌
国立科学博物館専報 (ISSN:00824755)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.67-73, 2006

アマギカンアオイHeterotropa muramatsui (F. Maek.) F. Maek.は伊豆半島に準固有のウマノスズクサ科の植物である.この変種シモダカンアオイH. muramatsui var. shimodana F. Maek.は伊豆半島先端の須崎半島にのみ自生している.またもう一つの変種タマノカンアオイH. muramatsui var. tamaensis (Makino) F. Maek.は関東地方の多摩丘陵を中心とした地域に分布している.これらの変種のうち,タマノカンアオイは独立した種,Asarum tamaensis Makinoと考える立場もある.本研究では,これらの3変種をフラボノイドを指標とした化学分類学的手法によって検討を行った.各種クロマトグラフィーによって分離されたフラボノイドは7種類で,UV吸収スペクトル,加水分解とその生成物の定性,質量スペクトル,ペーパークロマトグラフィーおよび高速液体クロマトグラフィーによる基準標品との直接の比較などからそれぞれ,chalcononaringenin 2', 4'-di-O-glucoside (1), kaempferol 3-O-rutinoside (2), kaempferol 3, 4'-di-O-glucoside (3), kaempferol 3-O-rhamnosylglucoside-4'-O-glucoside (4), quercetin 3-O-rutinoside (5), isorhamnetin 3-O-glucoside (6)およびisorhamnetin 3-O-rutinoside (7)と同定された.これらのうち,1はすでにアマギカンアオイ,シモダカンアオイ,タマノカンアオイから報告されており,また2, 5, 6および7についてもカンアオイ属植物から分離されているが,3と4はこれまでウマノスズクサ科では報告されていない化合物であった.アマギカンアオイ,シモダカンアオイおよびタマノカンアオイを二次元ペーパークロマトグラフィーと高速液体クロマトグラフィーによってフラボノイド組成を解析したところ,これらは質的にまったく同一であり,化学分類学的にはこれらの変種は同じ種類と考えられた.
著者
岩科 司
出版者
日本植物生理学会
雑誌
日本植物生理学会年会およびシンポジウム 講演要旨集 日本植物生理学会2003年度年会および第43回シンポジウム講演要旨集
巻号頁・発行日
pp.S23, 2003-03-27 (Released:2004-02-24)

フラボノイドは陸上植物のコケ類、シダ類、裸子および被子植物に広く分布する化合物群で、これまでに5,000種類近くの物質が報告されている。しかしながら、植物におけるこれらの成分の機能についてはほとんどわからないままであった。唯一古くから知られていた機能は色素として花に含まれるアントシアニン系フラボノイドの花粉媒介のための昆虫や鳥の誘引作用であった。これらの昆虫誘引についてはその後、アントシアニンばかりでなく、フラボンやフラボノールのような、ほとんど可視域に吸収をもたないフラボノイドも昆虫の誘引に役立っていることが判明している。しかし、花以外の葉や根などに存在するフラボノイドの機能については長い間あまり知られていなかった。近年、やっとこれらの機能に関する研究が本格的になり、フラボノイドがそれを合成する植物と他の生物との間に重要な機能を果たしていることがわかってきた。例えば、カンアオイ類やミカン科植物に含まれるフラボノイドのチョウに対する産卵刺激作用、クワの葉などのフラボノイドの昆虫に対する摂食刺激作用、マメ科植物の根などのフラボノイドの根粒菌誘引作用、またその逆の抗菌作用などである。さらには最近、生物間の作用ではないが、葉に含まれるフラボノイドについて、生物に有害な紫外線から植物を保護する機能も実証された。本講演では、これまでに判明しているフラボノイドの植物における機能について紹介する。
著者
岩科 司
出版者
公益社団法人 日本表面科学会
雑誌
表面科学 (ISSN:03885321)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.430-432, 2015-08-15 (Released:2015-08-20)
参考文献数
4

地球上には約500万~3000万種の生物が生存している。日本には植物だけでも7451種の陸上植物(5016種の被子植物,46種の裸子植物,623種のシダ植物,そして1766種のコケ植物)が生育している。しかしながら,それらの1/4は絶滅危惧植物に指定されており,その原因は大きく2つに分ける事ができる。1) 蛇紋岩地などの特殊な環境に生息し,もともとの個体数が少ない種と,2) 本来は多く生育していたが,人間によってその減少がもたらされた絶滅危惧種である。たいていの植物の減少は2)の人類による環境の破壊によってもたらされたが,一方,その修復をできるのも人類だけである。「生物の多様性とこれからの社会」はどうあるべきか,今後,我々人類が考えていかなければならない大きな命題である。
著者
岩科 司 八田 洋章
出版者
国立科学博物館
雑誌
筑波実験植物園研究報告 (ISSN:02893568)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.139-146, 1998-12
被引用文献数
1

Mastixia trichotoma Blume (ミズキ科),キジュ(Camptotheca acuminata Decne,ヌマミズキ科),ウリノキ(Alangium platanifolium (Sieb. & Zucc.) Harms var. trilobum (Miq.) Ohwi,ウリノキ科),シマウリノキ(Alangium premnifolium Ohwi,ウリノキ科)およびハンカチノキ(Davidia involucrata Baill., ハンカチノキ科)の葉に含まれるフラボノイド化合物がハンカチノキを除き,初めて報告された。これらの植物に含まれているのはいずれもフラボノールの配糖体で, M. trichotomaからはkaempferol 3-O-glucosideと3-O-galactosideおよびquercetin 3-O-glucoside,キジュからはkaempferolの3-O-glucosideと3-O-galactoside,およびquercetinの3-O-glucoside, 3-O-galactosideと3-O-rutinoside,ウリノキからはkaempferol 3-O-rutinoside,およびquercetin 3-O-glucosideと3-O-rutinoside,シマウリノキからはkaempferolの3-O-rutinoside, 3-O-rhamnosylgalactoside, quercetinの3-O-glucoside, 3-O-galactosideと3-O-rutinoside,およびisorhamnetinの3-O-rhamnosylglucosideと3-O-rhamnosylgalactoside,そしてハンカチノキからはkaempferolの3-O-galactoside,およびquercetinの3-O-glucoside, 3-O-galactosideと3-O-arabinosideが分離同定された。これらのフラボノイドはいずれもkaempferol, quercetinおよびisorhamnetinの3-O-モノ-あるいはジ-配糖体であり,著者らが以前に分離同定を行った大多数のミズキ属(Cornus)植物のフラボノイド組成と極めて類似していた。以上のような点から,限られた種の分析ではあるものの,上記4科の種属はフラボノイドを指標とした化学分類学的観点からみると,ミズキ科のうちでもフラボノールでなくフラボンの配糖体を含むハナイカダ属(Helwingia)や,糖として主にキシロースを結合しているフラボノールの3,7-O-配糖体が主要成分であるアオキ属(Aucuba)よりもむしろミズキ属に近縁であると推定された。
著者
岩科 司
出版者
国立科学博物館
雑誌
筑波実験植物園研究報告 (ISSN:02893568)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.1-18, 1996-12
被引用文献数
3

21科63種の植物の紅葉に含まれているクリサンテミン(cyanidin 3-O-glucoside),イデイン(cyanidin 3-O-galactoside)およびその他のアントシアニン色素が高速液体クロマトグラフィーによって検出された。以前にHayashi und Abe(1955)によって指摘されたように,ナラガシワ,ミズナラ,イヌザクラ,クマイチゴ,コマユミ,数種のカエデ科植物などの紅葉に含まれる主要アントシアニンの多くはクリサンテミンであることが判明したが,一方,ペーパーおよび薄層クロマトグラフィーでは識別が困難であるイデインもまた多くの植物で主要,あるいは微量の如何にかかわらず,クリサンテミンと共存していることが判明した。さらに,ペニシタン,コゴメウツギ,ナツツバキおよびホツツジではクリサンテミンはまったく検出されず,主要アントシアニンはイデインのみであった。これまで,紅葉からのイデインの検出はタデ科など(Kato 1982)極めて限られていたが,実際にはイデインはクリサンテミンとともに多くの植物の紅葉に含まれているのではないかと推定された。
著者
近藤 勝彦 日詰 雅博 小西 達夫 川上 昭吾 船本 常男 岩科 司
出版者
東京農業大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2007

近藤勝彦が代表のグループは、今まで27年間にわたって中華人民共和国中国科学院植物研究所系統与進化植物学国家重点実験室(北京市、香山)を中心とした洪徳元教授(中国科学アカデミー会員)グループをカウンターパートとして、日本と中国に共通して分布する植物種を分析して日本フロラの起源、種間関係ならびに絶滅危惧種の保全、異なった場所での塩基配列の変化、多様性、構成関連種の系統関係、動態、デモグラフィー、染色体核形態の変化などをさぐってきた。さらに2000年から、ロシア連邦を研究対象に加え、ユーラシア大陸ウラル山脈以東の構成植物に研究範囲を拡大し、ロシア科学アカデミー会員(A.A.Korobkov,P.V.Kulikov,M.S.Knyasev,A.Gontcharove,V.P.Verkholat,A.Shmakov),モスクワ国立大学(P.Zhmylev,M.V.Remizowa,D.D.Sokoloff)、モスクワ国立教育大学(N.I.Shorina,E.Kurchenko,I.V.Tatarenko,A.P.Zhmyleva,E.D.Tatarenko)、アルタイ国立大学(A.Shmakov,S.Smirnov,M.Kucev)、ブリヤート国立大学(D.G.Chimitov,S.A.Kholboeva,B.B.Namzalov)、オーレル国立大学(N.M.Derzhavina)、されにはモンゴルをも加え、ホフト国立大学(D.Oyunchimeg)の方々と、日本の植物相関連植物が分布する東アジアユーラシア大陸の東アジアフロラを研究してきた。東端に位置する日本列島島嶼域は全北植物界、北植物亜界の東アジア植物区系に属し、地史的に大陸と接合したり分離したりしてきた島環境が個体群遺伝子給源を保持しながら、時には遺伝子浮動を起こして繁栄してきたか、また、アルタイ山脈はロシア連邦シベリア地方の中央部を南北に縦断し、ヨーロッパ・フロラとアジア・フロラがぶつかり合って南北に境界線を作り上げ、混ざり合って自生しているが、これら2フロラがどのようにして共存しているのか、雑種性は頻繁に起きてきた可能性が大いにある。これら両端域に共通して自生する被子植物種で今迄に分類、系統、分布学的に問題を提起している分類群に注目して、発生生物学的データー集積と絶滅危惧性の扱いに注目しながら、近藤等(東京農業大学)の日本側グループとロシア側グループは、相互関連植物の分布、構造、パターンの成因を分子系統進化、分子細胞遺伝学的ならびに核形態学的研究による種分化に関する研究、および特異的種の絶滅危惧性を含めて今までに増して共同研究を進めた。しかし、まだ分析していない植物も多く、研究の継続を期待する。