- 著者
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金 明美
- 出版者
- 日本文化人類学会
- 雑誌
- 文化人類学 (ISSN:13490648)
- 巻号頁・発行日
- vol.69, no.2, pp.213-235, 2004-09-30
本稿は、戦前の学校や徴兵などによる国民化の過程を通して民衆に身体化されていった国民意識が、戦後どのように維持または変形されてきたのか、現在では庶民生活に身近となっているスポーツの普及過程を通して、そのメカニズムについて考察することを目的とする。ここでは、ローカリズムとナショナリズムの関係に注目する観点から、具体的な事例として、「サッカーのまち」として知られ、戦後日本でいち早く地域的にサッカーの大衆化を経験した清水市におけるサッカーの普及過程を取り上げ、ローカルな場における人々の身体がどのようにナショナルな枠組みに方向づけられていったのか、そこに働く構造化の仕組みについて記述・分析する。これによって、「サッカーのまち」へとローカル・イメージが変化する過程も含め、清水市のサッカー普及過程には、ローカル・アイデンティティの再形成とともに国民意識の身体化が進行するという、ナショナリズムとローカリズムの相互浸透の過程が表象されていることが明らかにされる。「サッカーのまち清水」という一見地域特殊的に見える現象が、いかにナショナルな次元と関係しているかを検証することにより、国民意識の身体化についての人類学的研究が、ナショナリズム研究に貢献できる一つの方向性を提示する。