著者
島田 泰夫 松田 裕之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.126-142, 2007-11-30
参考文献数
32
被引用文献数
1

風力発電事業を進める上で、鳥衝突(バードストライク)問題の解決が求められる。本稿では、順応的管理を取り入れた鳥衝突リスク管理モデル(AMUSE:Adaptive Management model for Uncertain Strike Estimate of birds)を提案する。このモデルは、個体群サイズと衝突数をモニタリングし、結果に応じて風力発電の稼動率を調整して衝突率を低減し、保護増殖施策を導入して個体群の成長率を増加させ、個体群の管理を目指すものである。オジロワシは、2004年2月〜2007年1月の間に7個体の衝突死が報告されており、本種を対象とし個体群パラメタを定めた。あらかじめ自然条件下での個体群計算を行い、エンドポイントを定めておく。その後、2通りの成長率シナリオと管理シナリオを用いて、管理モデルの計算機実験を行った。死骸は5日間で消失、死骸発見のための踏査間隔を30日間隔と仮定し、発見数を補正して推定衝突数とした。計算期間は、計画段階5ヶ年、稼働期間17ヶ年の合計22年間とし、3年毎に稼働管理計画を見直して、稼動率と保護増殖措置の有無、管理下における個体群サイズを得た。設備利用率は、北海道における2003〜2005年の実績値から推定し、計算機実験で得られた稼動率を乗じて管理対策による設備利用率とした。あらかじめ損益分岐点となる設備利用率の限界点を求めておき、これを割り込む程度を管理の事業破綻率とした。その結果、エンドポイント(個体群サイズ自然変動幅99.9%区間下限値)達成率を99%以上、なおかつ事業破綻率を10%以下とする条件は以下の通りであった。楽観的シナリオにおいては、2種類の管理シナリオと保護増殖措置の導入条件に左右されなかった。これに対して、悲観的シナリオにおいては、必要に応じて稼働率をゼロにし、なおかつ保護増殖措置の開始を稼働率90%もしくは99%の時点で導入する管理シナリオでのみ達成された。管理を実行していく上で残された課題は、死骸消失実験による消失日数の把握、発見率向上のための衝突自動監視装置等の開発、定期的な死骸踏査、個体群モニタリングによる成長率と個体群サイズ推定、道内営巣つがいによる繁殖成績の把握、事業破綻に備えたリスクヘッジである。

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