著者
植田 睦之 島田 泰夫 有澤 雄三 樋口 広芳
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.A9-A18, 2009 (Released:2009-09-16)
参考文献数
12
被引用文献数
1

全国31か所で2001年から運用されているウィンドプロファイラという風を観測するためのレーダーに渡り鳥を中心とした鳥からのエコーが映ることが知られている.そこで,2003年 8月から2007年12月の記録を使って,全国的な渡り鳥の状況について記載した.いずれの地域でも 4月から 6月にかけての春期と 8月から11月にかけての秋期の夜間に「鳥エコー」が多く記録された.またその時期は地域によって異なっており,北の地域は南の地域と比べて春は遅く,秋は早かった.渡りは日没 1~3時間程度後から活発になる日が多く,夜半過ぎからは徐々に少なくなった.春の渡りは秋に比べて,日没後に活発になるまでの時間が早く,秋の渡りでは季節の進行に従って,活発になる時刻の日没後の経過時間が短くなる傾向があった.地域的にみると,春の渡りは日本海側で多く,秋は太平洋側も多いという違いがあった.国外では,レーダーをもちいた渡り鳥の生息状況のモニタリングが行なわれているが,日本でもこのウィンドプロファイラを使うことでそれが可能になると考えられ,標識調査等の情報と合わせることでより意味のあるものにできると思われる.
著者
島田 泰夫 松田 裕之
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.126-142, 2007-11-30
参考文献数
32
被引用文献数
1

風力発電事業を進める上で、鳥衝突(バードストライク)問題の解決が求められる。本稿では、順応的管理を取り入れた鳥衝突リスク管理モデル(AMUSE:Adaptive Management model for Uncertain Strike Estimate of birds)を提案する。このモデルは、個体群サイズと衝突数をモニタリングし、結果に応じて風力発電の稼動率を調整して衝突率を低減し、保護増殖施策を導入して個体群の成長率を増加させ、個体群の管理を目指すものである。オジロワシは、2004年2月〜2007年1月の間に7個体の衝突死が報告されており、本種を対象とし個体群パラメタを定めた。あらかじめ自然条件下での個体群計算を行い、エンドポイントを定めておく。その後、2通りの成長率シナリオと管理シナリオを用いて、管理モデルの計算機実験を行った。死骸は5日間で消失、死骸発見のための踏査間隔を30日間隔と仮定し、発見数を補正して推定衝突数とした。計算期間は、計画段階5ヶ年、稼働期間17ヶ年の合計22年間とし、3年毎に稼働管理計画を見直して、稼動率と保護増殖措置の有無、管理下における個体群サイズを得た。設備利用率は、北海道における2003〜2005年の実績値から推定し、計算機実験で得られた稼動率を乗じて管理対策による設備利用率とした。あらかじめ損益分岐点となる設備利用率の限界点を求めておき、これを割り込む程度を管理の事業破綻率とした。その結果、エンドポイント(個体群サイズ自然変動幅99.9%区間下限値)達成率を99%以上、なおかつ事業破綻率を10%以下とする条件は以下の通りであった。楽観的シナリオにおいては、2種類の管理シナリオと保護増殖措置の導入条件に左右されなかった。これに対して、悲観的シナリオにおいては、必要に応じて稼働率をゼロにし、なおかつ保護増殖措置の開始を稼働率90%もしくは99%の時点で導入する管理シナリオでのみ達成された。管理を実行していく上で残された課題は、死骸消失実験による消失日数の把握、発見率向上のための衝突自動監視装置等の開発、定期的な死骸踏査、個体群モニタリングによる成長率と個体群サイズ推定、道内営巣つがいによる繁殖成績の把握、事業破綻に備えたリスクヘッジである。
著者
植田 睦之 島田 泰夫 奴賀 俊光 佐藤 功也
出版者
特定非営利活動法人バードリサーチ
雑誌
Bird Research (ISSN:18801587)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.S19-S25, 2017 (Released:2017-09-14)
参考文献数
19

洋上風車に対する海鳥の反応を明らかにするために,2013年と2016年に銚子沖で船舶用レーダを使った調査を行なった.いずれの調査でも風車から100m以内を鳥が飛行することは少なく,また,風車のそばで飛行方向をかえる行動が記録され,海鳥は風車を回避して飛んでいると考えられた.2013年と2016年を比較すると,2016年の方が風車のより近くを飛行する傾向があった.以上の結果から,洋上風車の海鳥への影響としては,バードストライクより風車を忌避したり,その海域を使わなくなったりする影響の方が大きいと考えられるが,レーダによる調査データには天候等の偏りがあり,海鳥への影響を明らかにするにはさらなる調査が必要である.