- 著者
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田中 謙
- 出版者
- 長崎大学
- 雑誌
- 長崎大学経済学部研究年報 (ISSN:09108602)
- 巻号頁・発行日
- vol.24, pp.51-74, 2008-03
- 被引用文献数
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湿地は,今日もっとも危機に瀕している自然生態系の1つである。1971年にラムサール条約が採択されたが,どのような湿地を,どの程度,どのような法制度で保全するのかについては,すべて締約国の自主的な判断に委ねられていて,日本においては,ラムサール条約の指定登録湿地は,鳥獣保護法の鳥獣保護区や,自然公園法における国立公園の保護地域などにすでに指定されている地域ばかりである。現行の湿地保全の法システムに対しては,(1)現行の法システムは,土地所有権を手厚く保護して規制を最小限度に抑える「財産権偏重」の法システムであるとともに,もともと自然はあり余っており,その利用を図るという前提でできているために,自然を保護しようと多少の修正を加えても,今日の自然環境保全の要請に応えることができない, (2)湿地の自然環境を保全するという機能が非常に弱い一方,自然を過剰に利用する結果,自然環境が破壊されている, (3)生態系を保全するという観点がとても弱く,過剰利用による生態系の破壊が絶えない, (4)登録湿地は水鳥重視で選定され,また地元合意を重視しているため,湿地保全の対象地域が適切に指定されていない, (5)ゾーニング手法が用いられ,また既得権が重視されている結果,土地所有者などに対する開発規制がとても甘い,などの問題点を指摘することができる。今後の課題であるが,湿地一般の保全を目的とした総合的な「湿地保全法」を策定する必要がある。なお,総合的な「湿地保全法」を策定する際には, (1)土地所有権を手厚く保護して規制を最小限度に抑える「財産権偏重」の法システムを転換し,土地利用規制を強化する, (2)環境保全機能を強化するとともに,過剰利用を抑制する, (3)生態系保全の観点を確保する, (4)ラムサール条約の「国際的に重要な湿地」の選定基準を踏まえて,保全対象地域を適切な方法で指定する, (5)湿地保全対象地域の公有化,戦略的環境アセスメントの実施,湿地の保全と「賢明な利用」を組み入れた利用計画の策定・実施などによって,開発規制を強化する,などの視点を盛り込むことが必要である。Wetlands are now in crisis. The Ramsar Convention on Wetlands was adopted in 1971. But the details about the conservation and the wise use of wetlands are referred to each Contracting Parties. In Japan, the wetlands registered in the Ramsar List are already designated under the current laws such as the Natural Parks Law and Wildlife Protection and Hunting Law etc. With regard to the legal systems on wetlands in Japan, I can point out five problems. 1) The problem is to make too much of property rights. 2) The problem is to make use of the surplus environment. 3) There is no viewpoint of ecological conservation. 4) The problem is not to designate the wetlands appropriately. 5) The problem is not to regulate the development acts strictly.