- 著者
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寺川 眞理
松井 淳
濱田 知宏
野間 直彦
湯本 貴和
- 出版者
- 日本生態学会
- 雑誌
- 保全生態学研究 (ISSN:13424327)
- 巻号頁・発行日
- vol.13, no.2, pp.161-167, 2008-11-30
- 被引用文献数
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大型果実食動物が絶滅した「空洞化した森林」では種子散布者が喪失し、植物の種子散布機能の低下が生じていると危惧されている。本研究では、ニホンザルが絶滅した種子島に着目し、サルの主要餌資源のヤマモモを対象に、種子の散布量が減少しているかを調べた。種子島と近隣のニホンザルが生息する屋久島にて、ヤマモモの結実木を直接観察し、散布動物の種構成と訪問頻度、採食果実数を求めた。屋久島で73時間46分、種子島で63時間44分の観察を行い、調査地の周辺では果実食動物がどちらの島でも10種ずつ確認されたが、ヤマモモに訪れたのは、主にニホンザル(屋久島のみ)とヒヨドリ(屋久島と種子島)に限られていた。ニホンザルは、ヒヨドリに比べて滞在時間が長く、採食速度も速いため、1訪問あたりの採食果実数は20倍以上の差があった。この結果は、ニホンザル1個体が採食したヤマモモの果実量をヒヨドリが採食するには20羽以上の個体が必要であることを意味する。しかしながら、本研究では、屋久島と種子島のヒヨドリのヤマモモへの訪問個体数は同程度であった。ヤマモモ1個体あたりの1日の平均果実消失量は、屋久島ではニホンザルにより893.0個、ヒヨドリにより25.1個の合計918.1個、種子島ではヒヨドリのみで24.0個であり、サルが絶滅した種子島では、ヤマモモの果実が母樹から持ち去られる量が極めて少ないことが示された。本研究の結果は、ニホンザルが絶滅した場合にヒヨドリがその効果を補うことはできない可能性を示しており、温帯においても空洞化した森林での種子散布者喪失の影響を評価していくことは森林生態系保全を考える上で今後の重要な課題であると考えられる。