著者
寺西 眞 鈴木 信彦 湯本 貴和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第52回日本生態学会大会 大阪大会
巻号頁・発行日
pp.530, 2005 (Released:2005-03-17)

ホトケノザは、主に他花受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉鎖花を同時につける一年草で、種子にエライオソームを付着する典型的なアリ散布植物である。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発芽個体は親と同じ環境での生育に適していると考えられている。一方、他殖種子は親と異なる遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる新しい環境へ分散・定着するのに適していると考えられる。したがって、自殖種子は親元近くへ散布され、他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるのが生存に有利であると考えられている(Near & Far Disperal model)。 そこで、アリによるホトケノザ種子の分散効果を考察・検討するために、野外にアリ飼育区(ホトケノザ6株とトビイロシワアリのコロニー)とアリ排除区(ホトケノザ6株のみ)を設置し、種子運命を追跡した。アリ飼育区および排除区の両区内ともに、ホトケノザは4月上旬に閉鎖花をつけ、4月下旬から5月下旬にかけて開放花をつけた。開放花には人為的に自家受粉・他家受粉を行った。11月中旬、アリ飼育区・排除区の両区内から実生が出現したが、両区の分布様式は異なった。アリ存在区の株のうち4株は12月に開放花をつけたが、アリ排除区のほうは1月になっても開放花をつけなかった。アリ存在区ではアリ排除区よりも1株あたりの高さ・総シュート長などが大きく、種子生産数も多かった。これらの結果から、ホトケノザはアリに種子散布を依存することで次世代株の種子生産数を上昇させ、適応度を上げることができると考えられた。今回の発表ではAFLP法による遺伝解析(他殖由来種子と自殖由来種子の追跡)の結果も合わせ、Near & Far Disperal modelを検証する。
著者
辻野 亮 湯本 貴和
出版者
一般社団法人 日本霊長類学会
雑誌
霊長類研究 (ISSN:09124047)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.79-93, 2014-06-20 (Released:2014-08-02)
参考文献数
100
被引用文献数
2 1

Primates are diverse regarding morphologically and ecologically. They play significant roles in the various niches of the ecosystem. In relation to the effects on the fitness, there are six possible combinations of biological interaction between primates and other species, ranging from harmful to mutually beneficial interactions and neutral interactions, such as predator-prey interaction (i.e., herbivory, predation and parasitism), competition, amensalism, mutualism, commensalism and neutralism, which result in the diverse species interactions. Therefore biological interactions between primates and other species have been studied. There are two major advantages in the ecological research of primates. Firstly, researchers are able to clarify detailed individual behaviours and ecological processes through the direct observation of primate individuals. Secondly, researchers are able to follow the secular trends of individual growth and/or lineages of blood relations through the long-term research of identified primate troops. We need further researches in the primate-other species interaction by applying field experiments, systematic background data, research networks, new research technology, meta-analysis methods, and transdisciplinary idea.
著者
寺川 眞理 松井 淳 濱田 知宏 野間 直彦 湯本 貴和
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.161-167, 2008-11-30 (Released:2018-02-09)
参考文献数
27
被引用文献数
3

大型果実食動物が絶滅した「空洞化した森林」では種子散布者が喪失し、植物の種子散布機能の低下が生じていると危惧されている。本研究では、ニホンザルが絶滅した種子島に着目し、サルの主要餌資源のヤマモモを対象に、種子の散布量が減少しているかを調べた。種子島と近隣のニホンザルが生息する屋久島にて、ヤマモモの結実木を直接観察し、散布動物の種構成と訪問頻度、採食果実数を求めた。屋久島で73時間46分、種子島で63時間44分の観察を行い、調査地の周辺では果実食動物がどちらの島でも10種ずつ確認されたが、ヤマモモに訪れたのは、主にニホンザル(屋久島のみ)とヒヨドリ(屋久島と種子島)に限られていた。ニホンザルは、ヒヨドリに比べて滞在時間が長く、採食速度も速いため、1訪問あたりの採食果実数は20倍以上の差があった。この結果は、ニホンザル1個体が採食したヤマモモの果実量をヒヨドリが採食するには20羽以上の個体が必要であることを意味する。しかしながら、本研究では、屋久島と種子島のヒヨドリのヤマモモへの訪問個体数は同程度であった。ヤマモモ1個体あたりの1日の平均果実消失量は、屋久島ではニホンザルにより893.0個、ヒヨドリにより25.1個の合計918.1個、種子島ではヒヨドリのみで24.0個であり、サルが絶滅した種子島では、ヤマモモの果実が母樹から持ち去られる量が極めて少ないことが示された。本研究の結果は、ニホンザルが絶滅した場合にヒヨドリがその効果を補うことはできない可能性を示しており、温帯においても空洞化した森林での種子散布者喪失の影響を評価していくことは森林生態系保全を考える上で今後の重要な課題であると考えられる。
著者
寺西 眞 藤原 直 白神 万祐子 北條 賢 山岡 亮平 鈴木 信彦 湯本 貴和
出版者
日本生態学会
雑誌
日本生態学会大会講演要旨集 第51回日本生態学会大会 釧路大会
巻号頁・発行日
pp.482, 2004 (Released:2004-07-30)

ホトケノザは、主に他花受粉をおこなう開放花と自家受粉のみをおこなう閉鎖花を同時につける一年草で、種子にエライオソームを付着する典型的なアリ散布植物である。一般的に、自殖種子は親と同じ遺伝子セットを持つため、発芽個体は親と同じ環境での生育に適していると考えられ、他殖種子は親と異なる遺伝子セットを持つため、親の生育環境と異なる新しい環境へ分散・定着するのに適していると考えられる。したがって、自殖種子は親元近くへ散布され、他殖種子は親元から離れた環境へ散布されるのが生存に有利であると考えられている。 開放花由来種子は閉鎖花由来種子より種子重・エライオソーム重・エライオソーム/種子(_%_)が有意に大きく、トビイロシワアリによる持ち去り速度が大きいことが明らかとなった。エライオソームを取り除いたホトケノザの種子は、エライオソームが付いたままの種子よりトビイロシワアリに持ち去られる割合・速度が低かった。また、エライオソームを接触させたろ紙片はほとんど巣に持ち去られたが、エライオソーム以外の種子表面を接触させたろ紙片はほとんど持ち去られなかった。 このようなアリの行動の違いがなぜ生じるのかを検討するため、アリの反応に関わる物質・アリの資源となる物質に着目して種子表面の化学的特性を調べた。その結果、遊離脂肪酸(オレイン酸、リノール酸など)、糖(フルクトース、グルコース)、アミノ酸(アラニン、ロイシンなど)が含まれていることが分かった。 これらのことから、ホトケノザは種子表面、特にエライオソームに含まれる化学物質の量・質を繁殖様式によって変えることで、アリによる持ち去り速度をコントロールしている可能性があることが示唆された。
著者
湯本 貴和
出版者
京都大学ヒマラヤ研究会・人間文化研究機構 総合地球環境学研究所「高所プロジェクト」
雑誌
ヒマラヤ学誌 : Himalayan Study Monographs (ISSN:09148620)
巻号頁・発行日
no.12, pp.158-162, 2011-05-01

ブータンでは輪廻転生という考え方に基づいて, 人々は殺生を極端に避ける傾向があるとされている. 亡くなった家族や知人が転生して, ハエや蚊などを含む, 身の回りの動物となっているかもしれないからだ. しかし, 中世日本では畜生道に落ちている衆生を殺生することによって, 畜生という境遇から救済するという考え方があった. この正反対の態度ではあるが, ブータンと中世日本に共通するのは, 輪廻転生に対する厳然たる「因果対応性」であり, 人がこの世で善悪の行為を行うと, それに対する過福の報いを必ず受けるという原理である. 現代日本人には, この世の善悪の行為が後生に関わるという切実さが想像しがたいが, ブータンや中世日本に生きる人々には, 現代日本社会において法の裁きによって犯罪の刑罰を受けるという必然性となんら遜色のないリアリティーで, 現世を超えた業が迫るのだろう.
著者
寺川 眞理 松井 淳 濱田 知宏 野間 直彦 湯本 貴和
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.13, no.2, pp.161-167, 2008-11-30
被引用文献数
1

大型果実食動物が絶滅した「空洞化した森林」では種子散布者が喪失し、植物の種子散布機能の低下が生じていると危惧されている。本研究では、ニホンザルが絶滅した種子島に着目し、サルの主要餌資源のヤマモモを対象に、種子の散布量が減少しているかを調べた。種子島と近隣のニホンザルが生息する屋久島にて、ヤマモモの結実木を直接観察し、散布動物の種構成と訪問頻度、採食果実数を求めた。屋久島で73時間46分、種子島で63時間44分の観察を行い、調査地の周辺では果実食動物がどちらの島でも10種ずつ確認されたが、ヤマモモに訪れたのは、主にニホンザル(屋久島のみ)とヒヨドリ(屋久島と種子島)に限られていた。ニホンザルは、ヒヨドリに比べて滞在時間が長く、採食速度も速いため、1訪問あたりの採食果実数は20倍以上の差があった。この結果は、ニホンザル1個体が採食したヤマモモの果実量をヒヨドリが採食するには20羽以上の個体が必要であることを意味する。しかしながら、本研究では、屋久島と種子島のヒヨドリのヤマモモへの訪問個体数は同程度であった。ヤマモモ1個体あたりの1日の平均果実消失量は、屋久島ではニホンザルにより893.0個、ヒヨドリにより25.1個の合計918.1個、種子島ではヒヨドリのみで24.0個であり、サルが絶滅した種子島では、ヤマモモの果実が母樹から持ち去られる量が極めて少ないことが示された。本研究の結果は、ニホンザルが絶滅した場合にヒヨドリがその効果を補うことはできない可能性を示しており、温帯においても空洞化した森林での種子散布者喪失の影響を評価していくことは森林生態系保全を考える上で今後の重要な課題であると考えられる。
著者
湯本 貴和 百瀬 邦泰 永益 英敏
出版者
日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.147-151, 2000 (Released:2009-02-28)
参考文献数
17
被引用文献数
8 11

マレーシア国サラワク州ランビル国立公園の熱帯雨林で,新しい送粉シンドロームであるリス媒が発見された。Madhuca sp.(アカテツ科)の花は,雄蕊と花弁が合着して,肉質な果実様の花筒を形成する。この花筒は甘く,ショ糖換算で15 %の糖度があった。また,この花筒は雌蕊や子房とは簡単に外れる。3 種のリスと1 種のムササビが花を頻繁に訪れては,花筒を手にもって食べる行動がみられ,その際に花粉が口のまわりや手についたのが観察された。植物個体間での花粉の移動は確認できなかったがリスやムササビが送粉に大きく関与していることが考えられる。
著者
湯本 貴和 山極 寿一 浅岡 一雄 丸橋 珠樹 Ndunda MWANZA
出版者
日本熱帯生態学会
雑誌
Tropics (ISSN:0917415X)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2+3, pp.233-238, 1995 (Released:2009-06-30)
参考文献数
24
被引用文献数
2 3

ザイール国の熱帯山地林に産する2 種のアフリカのナス属(ナス科)植物, Solanum dasyphyllum とS. aculeastrum の果実は森林ゾウによってのみ食べられ,種子散布されていることがわかった.他の動物は果肉に含まれる有毒物質のために,この果実を食わないことが示唆された.物質の同定などの探求がさらに必要であるが,植物が化学的な手段によって種子散布者を選んでいる最初の報告である可能性がある.
著者
井上 民二 ABANG A.Hami LEE Hua Seng 市岡 孝朗 山岡 亮平 永益 英敏 加藤 真 湯本 貴和 HAMID Abang.A LEE HuaSeng 寺内 良平 HAMID Abang 山根 正気 市野 隆雄
出版者
京都大学
雑誌
国際学術研究
巻号頁・発行日
1994

1.植物フェノロジー調査:林冠調査区の樹木、つる、着生などの植物に個体識別コードをつけ(約600本)、花芽形成から開花、結実にいたる繁殖ステージと、展葉の生長ステージの記録を月2回、1992年から4年間継続しておこなった。その結果、展葉には多くの種でかなりの周期性がみられることが明らかになった。非一斉開花期の開花は年中を通してあまり変化がないが、3-4月ごとにやや多いこともわかった。また1996年2月から半年にわたって起こった一斉開花では、モニターしている樹木550個体のうち381個体(69.3%)、種数にして192種のうち66種(34.4%)をはじめとした189属402種の開花の開始から終了までを記録した。2.昆虫個体群トラップ調査:林冠調査区の4ヵ所(林床、中木層17.4m、高木層35m、および林冠ギャップの地上部)に誘蛾灯(UVライト)による採集を月1回、1992年から4年間継続しておこなった。4年間に採集した昆虫の総数は500万頭に及ぶ。その採集標本の同定と結果の解析を現在、行っている。3.動植物共生系調査:1996年2月から始まった一斉開花で107属160種の植物について送粉者を確認した。そのほとんどは、これまで4年間に開花の記録がない種である。その結果、マレー半島部では、アザミウマによって花粉を媒介されるとされていたShorea属は、サラワクでは甲虫、とくにハムシ類によって花粉媒介されることが明らかになった。この一斉開花以前に、Lambirで鳥媒であるとされてきたのは、228種の樹木のうちのGanua sp.(Sapotaceae)1種のみ(Momose & Inoue 1994=しかも間違い)、3種のヤドリギ(Loranthaceae)(Yumoto 1996)、7種のショウガ(Zingiberaceae)(Kato 1996,酒井 修士論文)に過ぎず、しかも送粉者はクモカリドリ2種(Nectariniidaeの1亜科)にほぼ限られていた。しかし、今回の一斉開花でDurio3種(Bombacaceae)、属未同定ヤドリギ(Loranthaceae)、Tarenna1種(Rubiaceae)、Madhuca1種、Palaquium2種(ともにSapataceae)が新たに鳥媒であることが確認され、送粉する鳥もクモカリドリ4種、タイヨウチョウ1種(Nectariniidae)、ハナドリ2種(Dicaeidae)、コノハドリ1種(Irenidae)、また盗蜜/送粉者としてサトウチョウ(Psittacidae)の関与が明らかになった。コウモリ媒は以外と少なく、Fagraea1種(Loganiaceae)が確認されたに留まった。さらにGanua sp.(Sapotaceae)では、リス/ムササビ媒というまったく新しい送粉シンドロームが見い出された。これは花弁と雄ずい群が合着し、肉厚の器官を成し、それ自体、糖度15%と甘い報酬となっている。花蜜は分泌しない。花弁/雄ずい群が花床からすぐに離脱するのにかかわらず、雌ずいは非情に苦く、落下しにくい。リスとムササビが頻繁に、かつ執拗に訪花し、花弁/雄ずい群を外して食べるうちに、前肢や口のまわりに花粉をつけるのが観察された。また、フタバガキ科などの突出木を中心に種子散布と種子捕食の過程の調査を行った。4.植物繁殖システム・遺伝構造調査:フタバガキ科Dryobalanopsis属、Shorea属植物とショウガ科植物のDNAサンプルの採取を終了し、現在分析中である。5.動植物標本管理と分類学:これまでの4年間で採集できなかった植物の花と果実の標本を今回の一斉開花で得ることができた。昆虫標本も、送粉者、種子捕食者を中心に整備が進んだ。6.研究成果の出版:調査結果は現在順調にそれぞれの学術雑誌に投稿され、出版されている。年度末に英文の報告書を出版する予定である。
著者
山極 壽一 村山 美穂 湯本 貴和 井上 英治 藤田 志歩
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2012-04-01

アフリカの熱帯雨林に共存するゴリラとチンパンジーのコミュニティ構造を低地と高地で調査して比較分析した結果、標高の違いにより、ゴリラは集団サイズや構成、集団同士の関係、個体の集団への出入り、コミュニケーション、個体の成長速度に、チンパンジーは集団のサイズ、遊動域の大きさ、個体の分散に違いがあることが判明した。また、同所的に生息するゴリラとチンパンジーの間には、個体の分散の仕方、個体の集団への出入り、コミュニケーション、攻撃性、ストレス、繁殖戦略、生活史に大きな違いがみられ、それらの違いが食性の大きく重複する両種が互いに出会いを避け、競合や敵対的交渉を抑えるように働いていることが示唆された。