- 著者
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糸林 誉史
- 出版者
- 文化女子大学
- 雑誌
- 文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
- 巻号頁・発行日
- vol.18, pp.101-114, 2010-01
コミュニティーを社会全般の「断片化」に対抗する手段として重視する「コミュニタリアニズム」は,1990年代以降のアメリカで,自由放任の市場原理にもとづく新保守主義と,福祉や権利を国家によって保障しようとするリベラリズムの双方を批判する思想として脚光を浴びた。一方,「コミュニティ」とその理論は,近代社会が不確実さを増していき,ますます個人主義へと傾斜してゆくにつれて,コミュニティは変容を遂げて,人々に安全性と「帰属(belonging)」を与える源泉となった。そして最近では,政治の基盤である国家の代替物とさえ見られるようになっている。本稿では,グローバリゼーションが進み,個人主義が深刻化した1980年代に始まった「リベラル-コミュニタリアン論争」について概観し,その後の展開をコミュニティ論の変容とともに検討する。さらにコミュニタリアニズムと「公共性」の観点から,アジアにおける伝統的な「コモンズ」概念への批判と課題を見てみる。そして「文化論的転回」以降のコミュニティ研究の方法について,「実践共同体」への状況論的アプローチという観点から考察したい。