著者
糸林 誉史
出版者
文化学園大学・文化学園大学短期大学部
雑誌
文化学園大学・文化学園大学短期大学部紀要 = Journal of Bunka Gakuen University and Bunka Gakuen Junior College (ISSN:24325848)
巻号頁・発行日
vol.48, pp.1-11, 2017-01

モラル・エコノミーは,社会に埋め込まれ道徳的規範を伴った社会関係に焦点を当てることの重要性を指摘した。だが,地域社会や規範を本質的なものとして想定しており,その規範がなにに由来するのか,どのような実践の場で生成しているのか,その条件とは何かなど,動態的なプロセスや市場経済との関係についての究明が不十分であった。構造的な組み合わせとして文化と経済を分析することの困難を乗り越え,経済的な活動がいかに生じているのか,それが文化的に構築された文脈の中にいかに埋め込まれているのかを明らかにする必要がある。本研究の目的は,1970年代のモラル・エコノミー論争と1990年代の記号論的転回を経由して「経済的なもの」を捉えるための社会的文脈へと拡張するために,各分野の理論を比較検討することによって,結合体,連結体,ネットワークなどの概念と「経済的なもの」をめぐる説明モデルの内容や有効性を検証することである。また,近年,再評価の高まりつつある記述モデルとしての「アクターネットワーク理論」の可能性をみることで,物質的記号論の次元が切り開く社会形成の邂逅の層位の可能性についても検討を加えたい1)。
著者
糸林 誉史
出版者
文化女子大学
雑誌
文化女子大学紀要 人文・社会科学研究 (ISSN:09197796)
巻号頁・発行日
vol.18, pp.101-114, 2010-01

コミュニティーを社会全般の「断片化」に対抗する手段として重視する「コミュニタリアニズム」は,1990年代以降のアメリカで,自由放任の市場原理にもとづく新保守主義と,福祉や権利を国家によって保障しようとするリベラリズムの双方を批判する思想として脚光を浴びた。一方,「コミュニティ」とその理論は,近代社会が不確実さを増していき,ますます個人主義へと傾斜してゆくにつれて,コミュニティは変容を遂げて,人々に安全性と「帰属(belonging)」を与える源泉となった。そして最近では,政治の基盤である国家の代替物とさえ見られるようになっている。本稿では,グローバリゼーションが進み,個人主義が深刻化した1980年代に始まった「リベラル-コミュニタリアン論争」について概観し,その後の展開をコミュニティ論の変容とともに検討する。さらにコミュニタリアニズムと「公共性」の観点から,アジアにおける伝統的な「コモンズ」概念への批判と課題を見てみる。そして「文化論的転回」以降のコミュニティ研究の方法について,「実践共同体」への状況論的アプローチという観点から考察したい。
著者
糸林 誉史
出版者
文化女子大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

メディア産業の知・権力と番組制作者の解釈枠組みに関して、国際共同制作テレビドキュメンタリーをディスコース実践の問題として捉え、番組制作過程の「行為実践/表象する知・権力」の双方に対して、メディア人類学の視点から多角的に民族誌的な調査と番組内容の分析を平行して行った。よって補助金は、主に上記の研究を遂行するための内外における資料収集と聞き取り調査に当てられた。1.欧米のメディア人類学が、メディア研究全体のなかで大きな成果を収めた、マスメディア・システムを特定の言明を儀礼化する儀礼的エージェントとして見なす近年の民族誌的研究について、その意義や成果を確認し、その成果を論文として発表した。2,英国映画協会(BFI)において、国立映画テレビ放送アーカ'イブス(NFTVA)でのBSC(放送番組基準委員会)に関する資料収集。BBCにおいて、EPUの編集方針、プロデューサー・ガイドラインに関する聞き取り調査を行った。またロンドン大学の「アジアメディアプロジェクト」関連の資料調査をシンガポールの南洋工科大学において行った。3.米国のワシントンDCとメリーランド、さらにマレーシアにおいて、次のような資料調査と聞き取り調査を行った。共同製作者:『ミニドラゴンズ』の制作過程、日本語版へのコメント、ゲートキーパーの役割等の聞き取り調査。米国放送図書館(ABL)および国立公共放送アーカ'イブス(NPBA):放送倫理と第三者機関。米国議会図書館:連邦通信委員会(FCC)と公共放送制度である。4.以上の成果を踏まえて、論文を執筆するとともに、批判的ディスコース分析による調査結果の分析を進めている。本研究課題より派生したメディア言説と国家理念の問題に関して、基盤研究C(一般)による共同研究「新聞広告・読書欄にみる東南アジア域内世論の相互仮響」モデル構築」と題する研究を企図し、準備を進めている。