著者
山田 哲也 長谷川 裕
出版者
東洋館出版社
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.86, pp.39-58[含 英語文要旨], 2010

学校への不信を背景に導入された近年の教員政策は,(1)教員の権威のゆらぎと,(2)職場同僚関係の変化を促す方向で展開してきた。本論文は,教員文化論の視角から質問紙調査データを分析し,(1)(2)を含む教員世界の変化の中で,教員の職業上のアイデンティティ(教職アイデンティティ)とその確保戦略としての教員文化がどうあるのかの把握を試みた。分析で明らかになった知見は以下の3点である。第一に,国際比較データを分析すると,いずれの国でも教職アイデンティティに教員としての成功感覚に裏打ちされた「安定」層と,教職上の困難による教育行為・教職観の揺らぎを意味する「攪乱」層の二層があることが明らかになった。第二に,他国とは異なり,日本の教員は上記の二層のそれぞれと結びつくことがらを相対的に切り離されたものと捉え,教職上の諸困難に直面する際にその一定部分を自分自身では対処不可能と見なすことで「安定」の動揺を回避する「二元化戦略」によって教職アイデンティティを維持していた。第三に,異なる時期に実施した調査結果を比較したところ,上記の教員世界の変化が,献身的教師像と求心的な関係構造が結びつくことで教職アイデンティティを維持していた従来の教員文化が衰退するなかで生じていることが示唆された。これらの知見を踏まえ,論文の末尾では,教員世界の個別化・自閉化や現状追認志向を回避するためには教員世界の外部に学校を開くことが重要であり,そのためにも不信を基調とした教員政策を再考する必要があると結論づけた。

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