- 著者
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白川 哲夫
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学文学部内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.87, no.6, pp.812-842, 2004-11
「戦没者慰霊」の研究は近年急速な進展を見せているが、時期的変遷や、事例間の関連性が十分に整理されていないと思われる。本稿では、地域の招魂祭と戦死者葬儀の実態を論じ、それぞれの行事がどのような役割を近代日本社会の中で担っていたのかについて考察した。戦死者を集団として祭祀する招魂祭と、個人として弔う戦死者葬儀は、それぞれが平時と戦時の「戦没者慰霊」を担った。いずれも地域が一体となった行事であり、時代が下るにつれその公的性の度合いは強まった。また二つの行事は神道と仏教の果たす役割の違いを反映しており、前者は主として死者への顕彰と称賛、後者は死者への哀悼と弔いを受け持っていた。その役割は互いに自覚的に選び取ったものではなく、互いの領域を奪い合おうとする紛争が通時代的に起こり続けていたのである。