著者
酒井 一臣
出版者
史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
雑誌
史林 (ISSN:03869369)
巻号頁・発行日
vol.96, no.3, pp.452-479, 2013-05

本稿の目的は、一九二九年に発効した不戦条約にかんする日本国内の諸議論を考察することによって、外交の民主化と国際協調外交の関係を探ることである。不戦条約は国際的平和宣言という性格だったにもかかわらず、日本では、条約中の一節「人民ノ名二於テ」が天皇大権を侵すとの批判がでて政治問題化した。この文言をめぐり、衒学的な不毛な論争が行われたが、条約に実効性がない点、外交の民主化に慎重である点では、意見が一致していた。これに対して、信夫淳平など、条約を高く評価する論者は、「国民外交」すなわち外交の民主化を重視していた。ここに条約をめぐる重大な論点があった。しかし、自衛権の範囲などの論点とともに、外交の民主化についても議論は深まらず、政争の面だけが注目されて、「人民ノ名二於テ」の一節は日本に適用されないとの条件をつけて条約は批准された。結論として、国際協調主義者でさえ、その多くが「国民外交」の問題に背を向けた点が日本外交混迷の一因となっていくことを指摘した。

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