- 著者
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都留 俊太郎
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.97, no.3, pp.405-445, 2014-05
本稿の目的は、一九三〇年代前半の台中州北斗郡における製糖会社の甘蔗作経営と台湾人篤農家による電動ポンプ導入の過程を検討することにより、農業生産の場において技術を軸として深刻化した統治の問題と、その統治の中で生き延びる可能性を考察することである。製糖会社による甘蔗生産の合理化が蔗作農家を窮迫せしめる中で、台湾電力が利用を勧誘していた電動ポンプは高額な経済的負担という難点を含みながらも甘蔗作から稲作への転換を可能にし、惨状から脱却する可能性を農家へと示した。それまで甘蔗作に尽力していた台湾人篤農家はいかなる葛藤をへてポンプ導入を決断するに至ったのか。以上を、台湾電力資料(東京大学経済学部資料室所蔵) を主に利用して明らかにする。従来の植民地研究において近代性論はその対象を社会史・文化史に集中させてきたが、本論文はそれを経済史へと拡張しつつ、近代性論の深化を試みる。