- 著者
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佐野 静代
- 出版者
- 史学研究会 (京都大学大学院文学研究科内)
- 雑誌
- 史林 (ISSN:03869369)
- 巻号頁・発行日
- vol.98, no.4, pp.588-619, 2015-07
本稿では漁業史からの環境史研究へのアプローチを試み、近世琵琶湖における蜆漁と採藻業という二つの漁業史料の新たな読み解きによって、山地までを含む琵琶湖南部の集水域における近世の人間活動と生態系の変化を解明した。田上山地の荒廃とそれに対する土砂留政策が、一八世紀半ばに草肥に代わるものとして湖産の貝灰肥料の導入を促し、それまで里山に頼っていた村々を「里湖」の循環的システム内へ編入させる契機となった。また一九世紀には菜種の栽培技術の革新が湖岸の半湿田での裏作を可能にし、さらに京での菜種油の価格上昇がその栽培肥料としての藻取りを加速させたことが明らかとなった。水草肥料を自給できた当地は金肥高騰に悩む他産地を抑え、全国有数の菜種産地に成長しえたのである。藻取りは水域からの栄養塩の除去にもつながっており、このような「二次的自然」としての「里湖」の生態系には、近世後期に確立の画期があることがわかった。