- 著者
-
永田 里美
- 出版者
- 跡見学園女子大学
- 雑誌
- 跡見学園女子大学文学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Literature (ISSN:13481444)
- 巻号頁・発行日
- no.54, pp.69-84, 2019-03
形式的には疑問文で聞き手に問いかけながら、話し手は当然の応答として、聞き手に反対の結論を要求する用法を「反語」と定義すると、中古では疑問を表す助詞「ヤ」、「カ」が「ハ」を伴った「ヤハ」「カハ」となったときに、その意味を担うことが多い。本稿は永田(二〇一八)に続き、中古の和文資料である『源氏物語』の地の文、心内発話文、和歌における「ヤハ」「カハ」の結びの形式に着目した調査を行った。調査の結果、和歌には定型的な表現としての偏りがみられるものの、「ヤハ」「カハ」の結びの形式は全体として会話文の調査結果に近似していることがわかった。「ヤハ」・用例のほとんどが反語表現と解釈される。・結びの形式には基本形(存在詞多数)、アリを含む助動詞など、客体的、既実現・現実の要素が認められる。・調査対象中、和歌においてのみ「ヤハ~スル」「ヤハ~セヌ」の用例がみられ、地の文、心内発話文には当該型式の用例がみられない。「カハ」・地の文、心内発話文では反語の解釈であるか否か、揺れる用例がみられるが、和歌では反語解釈に傾く。・結びの形式には「ム」(推量)「マシ」(反実仮想)「ケム」(過去推量)「ラム」(現在推量)など、主体的、未実現・非現実の要素が認められる。これらの特徴から、全体的な傾向として「ヤハ」と「カハ」との間で結びの形式に相違がみられること、結びの形式からみた文体上の特徴として和歌は地の文、心内発話文とは位相を異にすることがうかがえる。