著者
池田 光義
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Literature (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.53, pp.49-72, 2018-03

ジンメルの学問的活動期は、人文社会科学において各種の方法論争が繰り広げられるヴィルヘルムニ世時代と重なるが、ジンメルの理論的展開をこうした種々の方法論争との関連で考察・評価する試みはほとんど存在しない。本稿では、この欠落を埋める系統的な作業のための予備考察を試みる。すなわち、いくつかの論争点に関するメンガー、シュモラー、テンニース、ヴィンデルバント、リッカート、ゾンバルトの理論的態度を確認し、ジンメルのスタンスをこれらの態度と比較し、論争史におけるジンメルの隠れた、しかし特異で重要な貢献および論争から受けた間接・直接の刺激・影響を指摘したい。本稿(上)では、メンガー・シュモラー間の経済学方法論争、ディルタイに始まる自然科学-精神(文化)科学の関係をめぐる方法論争を取りあげ三節に分けて検討する。本稿続編(下)では、「4.ジンメルと精神(文化)科学論争(続)、5.世紀転換期の価値判断論争、6.ジンメルと価値判断論争」について論じる。
著者
橋本 聖子 宮岡 佳子 鈴木 眞理 加茂 登志子
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Literature (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.53, pp.265-276, 2018-03

[目的]摂食障害は、拒食、過食など摂食行動の異常を呈する精神疾患である。摂食行動の異常のみならず、肥満恐怖、ボディイメージの障害を生じる。患者は若い女性に多いが、発症には、やせを礼賛するマスメディアの影響が人きい。このような社会文化的要因に、個人のもつ生物学的脆弱性、性格傾向、ストレスフルな環境、家族関係などの要因がからんで発症する。近年、新しいメディアのツールとして、ソーシヤルネットワーキングサービス(social networking service : SNS)が急速に普及している。 SNSでは気軽に他者の写真を見ることができるため、摂食障害を引き起こす誘因のひとつになる可能性がある。そこで本研究では、SNSの使用状況、食行動異常、ボディイメージとの関連について調べることにした。[方法]調査対象は、20~30代の女性摂食障害患者42名(患者群、平均年齢25.3歳)および、一般女子大学生143名(一般群、平均年齢20.4歳)に質問紙調査を行い比較検討した。[結果](1)一般群のほうが患者群よりもSNSを利用する傾向があり、SNSの写真をコーディネートの参考にしていた。一方、患者群のほうがSNSで他人の写真の体型が気になると回答した。(2)自分の体型についてどう認知しているかによって、患者群、一般群それぞれ3群に分けた(「自分が実際よりも太っているという認知が患者または一般群内で高い群(1群)」、「中間群(2群)」、「自分が実際よりも太っているという認知が患者または一般群内で低い群(3群)」)。患者群の「自分が実際よりも太っているという認知が高い群」は、摂食障害の中でもボティイメージの障害が強い群と考えられる。この群は他の患者群よりも、ダイエット(体重を減らすこと)に関心があり、SNSではブログをより使っていた。[考察]ブログは、他のSNSと比較すると長い文章を記載することができる。やせや体型へのこだわりの強い摂食障害患者ほど、食生活やダイエットに関する記事、摂食障害患者の日記や闘病記などを読んでいる可能性が示唆された。
著者
高橋 善隆
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Literature (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.54, pp.145-157, 2019-03

米国政治の中長期的トレンドは、人口構成の変化を反映したマイノリティのエンパワーメントとこれに対抗するホワイト・バックラッシュで彩られている。2018年の中間選挙も下院でラティーノ・アフリカ系・働く女性・若者などの進歩的勢力が民主社会主義を掲げ躍進を見せる一方で、トランプ支持者や共和党は上院で多数を維持するなどの結果を残した。移民政策の迷走や中西部の動向を手掛かりに中間選挙の背景を分析する。
著者
永田 里美
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Literature (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.54, pp.69-84, 2019-03

形式的には疑問文で聞き手に問いかけながら、話し手は当然の応答として、聞き手に反対の結論を要求する用法を「反語」と定義すると、中古では疑問を表す助詞「ヤ」、「カ」が「ハ」を伴った「ヤハ」「カハ」となったときに、その意味を担うことが多い。本稿は永田(二〇一八)に続き、中古の和文資料である『源氏物語』の地の文、心内発話文、和歌における「ヤハ」「カハ」の結びの形式に着目した調査を行った。調査の結果、和歌には定型的な表現としての偏りがみられるものの、「ヤハ」「カハ」の結びの形式は全体として会話文の調査結果に近似していることがわかった。「ヤハ」・用例のほとんどが反語表現と解釈される。・結びの形式には基本形(存在詞多数)、アリを含む助動詞など、客体的、既実現・現実の要素が認められる。・調査対象中、和歌においてのみ「ヤハ~スル」「ヤハ~セヌ」の用例がみられ、地の文、心内発話文には当該型式の用例がみられない。「カハ」・地の文、心内発話文では反語の解釈であるか否か、揺れる用例がみられるが、和歌では反語解釈に傾く。・結びの形式には「ム」(推量)「マシ」(反実仮想)「ケム」(過去推量)「ラム」(現在推量)など、主体的、未実現・非現実の要素が認められる。これらの特徴から、全体的な傾向として「ヤハ」と「カハ」との間で結びの形式に相違がみられること、結びの形式からみた文体上の特徴として和歌は地の文、心内発話文とは位相を異にすることがうかがえる。
著者
永田 里美
出版者
跡見学園女子大学
雑誌
跡見学園女子大学文学部紀要 = Journal of Atomi University, Faculty of Literature (ISSN:13481444)
巻号頁・発行日
no.53, pp.91-103, 2018-03

形式的には疑問文で聞き手に問いかけながら、話し手は当然の応答として、聞き手に反対の結論を要求する用法を「反語」と定義すると、中古では疑問の助詞「ヤ」、「カ」が助詞「ハ」を伴ったとき、特にその意味を担うことが多いとされる。従来、「ヤ」、「力」についての特性は研究が重ねられてきたが、「ヤハ」、「力ハ」の反語表現については未だ不明な点が少なくない。そこで、本稿では中古の和文資料である『源氏物語』の会話文を調査対象とし、「ヤハ」、「カハ」の結びの形式に着目しながら、表現価値の異なりについて考察を行った。調査結果から言えることは以下のとおりである。「ヤハ」・用例のほとんどが反語表現と解釈される。・結びの形式には「基本形」(存在詞多数)「ケリ」(過去)「ズ」(打消)「ヌ」(完丁)「リ」(存続)など、客体的、既実現・現実の要素が認められる。「カハ」・用例には反語の解釈であるか否か、揺れるものが見られる。・結びの形式には「ム」(推量)「マシ」(反実仮想)「ケム」(過去推量)「ラム」(現在推量)など、主体的、未実現・非現実の要素が認められる。 これらの特徴から、「ヤハ」は、話し手が直截的な事柄を二者択一で示し、聞き手に当該事態の不成立を訴える反語表現であるのに対し、「カハ」は、話し手が想像を介して不定を示し、聞き手に幾つかの回答案を前提として話し手のいわんとする当該事態の不成立を訴える反語表現であると理解される。『源氏物語』では女性が会話文で「ヤハ」を使用する場合、それは、あからさまな物言いをする人物造型あるいは場面設定として描かれることが認められる。反語表現「ヤハ」、「カハ」は、論理的に見れば、問うた事柄の反対の結論を聞き手に求めるものであるが、その表現性という観点から見れば、直截的な既実現・現実事態を問う「ヤハ」と推量の助動詞を用いて未実現・非現実事態を問う「カハ」とでは聞き手に対するニュアンスが異なっていることがわかる。