- 著者
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並松 信久
- 出版者
- 京都産業大学日本文化研究所
- 雑誌
- 京都産業大学日本文化研究所紀要 = THE BULLETIN OF THE INSTITUTE OF JAPANESE CULTURE KYOTO SANGYO UNIVERSITY (ISSN:13417207)
- 巻号頁・発行日
- no.26, pp.360-310, 2021-03-31
わが国では千年以上にわたって、自然が社会的コミュニケーションや文化的表現であり続けている。しかし、日本人の自然観は一様であったわけではなく、大きく変化してきた。本稿では、日本文化の各分野に現われる自然観の系譜をたどった。一般に日本文化における自然観の特徴は、人間と自然との共生とされてきた。日本文化には、古代から空間的にも精神的にも自然が隅々まで入り込んできた。しかし、各分野で再現された自然は、自然そのもの(一次的自然)ではなく、人間の感性を含んだ「二次的自然」であった。本稿は一次的自然と二次的自然の関連性を考察し、共生思想の形成を明らかにした。日本の多くの芸術は、中国文化の影響を受けながら、自然を邸宅や庭園で再現し、さらに自然を屋内に持ち込んだ。この過程で日本文化は深化し、独創的な自然観が培われた。これは貴族をはじめとする上流階層が担ったものであった。その一方で、庶民は一次的自然に接し、自然を主に「畏れ」や「護符」の対象とする独特の自然観をもった。前者の自然観は、近世になって年中行事や名所を通して、庶民の間に拡がり、後者の自然観と融合した。これは二次的自然の屋外化といえるものであった。人間と自然の共生思想は、このような展開をとって形成された。