著者
川井 謙太朗 中山 恭秀 吉田 啓晃 宮野 佐年
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2005, pp.A0799, 2006

【目的】肩甲胸郭関節は肩関節において、最も中枢部に位置する重要な関節である。腱板機能の重要性は知られているが、腱板が機能するためには基盤となる肩甲胸郭関節の安定性が重要である。また、肩甲胸郭関節は安定化機構に加えて、上肢運動連鎖として機能する重要な関節である。肩甲上腕関節に関与する主要筋力と握力との関連性については、廣瀬らにより報告されているが、肩甲胸郭関節に関与する筋群(前鋸筋・菱形筋・僧帽筋など)との関連性については、一切報告なされていない。そこで、Hand-held Dynamometer(以下HHD)を使用し、肩甲胸郭関節に主に関与する筋群を計測し、握力との関連性を検討することを目的とした。尚、事前に検者内信頼性に優れた検査であることを確認した。<BR>【方法】当大学倫理委員会の承諾を得て、十分に研究の目的を説明した後、実験に対し同意を得た教職員を対象とした。健常女性20歳代~60歳代の各年代20名ずつ、計100名(200肩)、利き手が右手の人とした。測定項目はMMTに基づき、肩甲骨外転と上方回旋、肩甲骨内転、肩甲骨下制と内転、肩甲骨内転と下方回旋の4動作とした。抵抗を加える部位、HHDの測定パットの位置は、MMTの段階5の徒手抵抗位置と同様とし、break testとした。握力は、握力計(松宮医科精器製作所HAND DYNAMO METER KIRO)を使用し、足幅を肩幅に開いた立位、体側垂下式にて測定した。尚、左右各々3回の平均値を採用した。<BR>【結果】握力と肩甲胸郭関節に主に関与する筋力との相関関係をPearsonの積率相関係数(p<0.001)にて求めた結果、全ての動作において、握力と正の相関が認められた。肩甲骨外転と上方回旋(右:r=0.63 左:r=0.61)、肩甲骨内転(右:r=0.38左:r=0.36)、肩甲骨下制と内転(右:r=0.33 左:r=0.31)、肩甲骨内転と下方回旋(右:r=0.35 左:r=0.39)。肩甲骨外転と上方回旋に関しては、握力と有意な正の相関が認められた。<BR>【考察】本研究では、握力と全ての筋力との間に正の相関が認められたことより、握力から肩甲胸郭関節に主に関与する筋力が予測できることが確認された。また、肩甲骨外転と上方回旋筋群のみに有意な正の相関が認められた。廣瀬らは、握力と肩甲上腕関節に関与する主要筋力との関係を調べ、肩関節屈筋群のみに有意な相関が認められたと報告している。肩関節屈曲時の計測において肩甲胸郭関節は、前鋸筋の作用により肩甲骨を胸郭に固定させ安定性を高めている。勿論、僧帽筋・菱形筋などの筋群も安定性向上のため機能しているが、前鋸筋に比べると弱い。つまり、廣瀬らの計測した肩関節屈筋群と、本研究の肩甲骨外転と上方回旋筋群(前鋸筋など)は同様の動作で測定するため、類似した結果が得られたと考える。

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