- 著者
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中俣 修
山﨑 敦
古川 順光
金子 誠喜
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement
- 巻号頁・発行日
- vol.2009, pp.A3O2034, 2010
【目的】体幹部は身体重量の約50%を占める大きな身体領域である。そのため、体幹筋には、体幹の姿勢の平衡状態を維持するために外力に応じて筋出力を調整する機能が求められる。立位では、体幹部の重心線が腰椎のすぐ近位を通過するため、姿勢保持に作用する体幹筋活動が小さい。しかし、変化は少ないながら腹横筋、内腹斜筋には、背臥位から立位への姿勢変換に伴い筋活動の増加を認め、この活動は内臓器の支持、仙腸関節の安定性に関与するとされる。立位における体幹筋活動、鉛直方向の運動負荷に対する体幹筋活動の特徴を明らかにすることは、重力に抗する姿勢保持メカニズムを考える上で重要であると考えられるが、鉛直方向の運動負荷と体幹筋の活動との関係を分析した報告は少ない。そこで、本研究では、跳躍動作により体幹部への鉛直方向の運動負荷を加えた際の腹筋群の筋活動に注目し、鉛直方向の運動負荷に対する腹筋群の活動の特徴を分析することを目的とした。<BR>【方法】対象は健常な大学生男性8名(平均年齢21.6歳、平均身長172.7cm、平均体重61.9kg)であった。体幹筋群の筋電位の計測にテレメーターシステムWEB-5000(日本光電社製)、腰部および膝関節の運動の計測に電気角度計(Biometrics社製)、動作中の加速度の計測には3軸加速度計(MicroStone社製)を用いた。体幹右側の腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋、脊柱起立筋(胸部)、多裂筋(腰部)を被験筋とした。座位にて腹筋群および背筋群の最大等尺性筋収縮(MVC)時の筋電図信号の計測を行った後、腰部および膝関節部に電気角度計、胸骨前面に3軸加速度計を取り付けた。課題動作は跳躍動作とした。被験者には両手を胸の前方で組ませ、体幹部を直立に維持した状態で縄跳びを跳ぶ程度の跳躍動作を15~20回程度反復させた。計測した筋電位・関節角度・加速度の信号をA-D変換器 (AD instruments社製)を介してコンピュータに取り込んだ。体幹の加速度変化および膝関節運動の特徴から跳躍動作の周期(跳躍周期)を決定し、連続した3回の動作を任意に抽出した。跳躍周期における各筋の積分筋電図値を算出した後に跳躍周期の時間で除し、単位時間あたりの積分筋電図値(跳躍動作積分筋電図値)を算出した。さらに跳躍動作積分筋電図値を、MVC実施時の単位時間あたりの積分筋電図値を用いて正規化し、跳躍動作積分筋電図値(%MVC)を算出した。3周期の平均値を分析に用いた。跳躍動作における腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の跳躍動作積分筋電図値の相違の分析には、Kruskal-Wallis検定を用い、有意差を認めた場合にはBonferroniの不等式による修正を利用し多重比較を行なった。<BR>【説明と同意】研究への参加にあたり、被験者には書面および口頭にて十分な説明を行った後、実験参加の同意を得て実施した。<BR>【結果】跳躍動作積分筋電図値(%MVC)の平均値(標準偏差)は、腹直筋:3.5(1.9)%、外腹斜筋:9.4(5.4)%、内腹斜筋:28.9(9.5)%であった。筋間の筋活動量には有意差を認め(P=.025)、腹直筋、外腹斜筋、内腹斜筋の組み合わせ全てに有意差を認めた(P<.01)。<BR>【考察】跳躍動作周期における筋活動量の分析結果から、腹直筋の筋活動が小さく、内腹斜筋の筋活動が大きい特徴を認めた。この特徴は、ドロップジャンプについて分析を行なった河端らの研究結果とも類似したものであった。今回、計測を行った内腹斜筋部位は、骨盤内を横行するため直接的な脊柱運動への関与はなく、主として骨盤部の安定性、内臓器の支持に関与するとされる。跳躍動作では立位と比較し体幹部にはより大きな圧迫負荷が加わること、内臓器に作用する慣性力が作用する。そのため内腹斜筋部に大きな筋活動を生じたと考えられる。今回の結果より、鉛直方向の運動においては、腹筋群の役割は異なり、腹直筋よりも側腹筋、特に内腹斜筋の役割が大きく関与すると考える。<BR>【理学療法学研究としての意義】本研究では跳躍動作時の体幹筋活動を分析することにより、鉛直方向への運動刺激に対する腹筋群の活動の特徴を検討した。立位姿勢を保持するメカニズムの検討、立位姿勢の指導や荷重位での体幹筋トレーニングを検討する視点として意義が大きいと考えられる。<BR>