著者
山内 大士 松村 葵 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101284, 2013

【はじめに、目的】肩関節疾患患者では僧帽筋上部(UT)の過剰な筋活動と僧帽筋中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)の筋活動量低下が生じることが多い。また肩甲骨運動に関しては、挙上運動時に上方回旋・後傾・外旋が減少すると報告されている。そこで肩甲骨機能の改善を目的とした様々なエクササイズが考案され、臨床現場で実施されている。特に、体幹や股関節の運動を伴ったエクササイズは近位から遠位への運動連鎖を賦活し、肩甲骨機能の改善の一助となると考えられている。しかし、体幹運動を加えた時に実際に肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動がどのように変化するのかは不明である。本研究の目的は、肩関節エクササイズに対して体幹同側回旋を加えた運動と体幹回旋を行わない運動とを比較し、体幹回旋が肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常男性13 名とし、測定側は利き腕側とした。測定は6 自由度電磁気センサーを用い、肩甲骨・上腕骨の運動学的データを測定した。また、表面筋電計を用い、UT、MT、LT、SAの筋活動を導出した。動作課題は、1)立位で肩甲骨面挙上運動(scaption)、2)立位で肩関節90 度外転位、肘90 度屈曲位での肩関節外旋運動(2ndER)、3)腹臥位で肩関節90度外転・最大外旋位、肘90 度屈曲位での肩甲帯内転運動(retraction90)、4)腹臥位で肩関節145 度外転位、肘伸展位での肩甲帯内転運動(retraction145)とした。それぞれの運動について体幹を最終域まで運動側に回旋しながら行う場合と、体幹を回旋しない場合の2 条件を行った。運動は開始肢位から最大可動域まで(求心相)を2 秒で行い、1 秒静止した後2 秒で開始肢位に戻り開始肢位で1 秒静止させた。運動速度はメトロノームを用いて規定した。筋電図と電磁センサーは同期させてデータ収集を行った。肩甲骨角度は胸郭セグメントに対する肩甲骨セグメントの オイラー角を算出し、安静時から最大可動域までの運動角度変化量を求めた。筋活動は最大等尺性収縮時を100%として正規化し、求心相の平均筋活動量を求めた。 またMT、LT、SAに対するUTの筋活動比を算出した(UT/MT、UT/LT、UT/SA)。筋活動比は値が小さいほどUTと比較してMT、LT、SAを選択的に活動させていることを示す。統計処理はエクササイズごとにWilcoxon 符号付順位検定を用い、体幹回旋の有無について肩甲骨運動角度の変化量と肩甲骨周囲筋の平均筋活動量と筋活動比を比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被検者には十分な説明を行い、同意を得たうえで実験を行った。【結果】1)scaptionにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋・後傾が有意に増加した。筋活動はMT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MT、UT/LTが有意に減少した。2)2ndERにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋が有意に増加した。筋活動はUT、MT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MTが有意に減少した。3) retraction90、4)retraction145 において、体幹回旋を加えても外旋と後傾には変化がなかった。筋活動はUTが有意に減少した。筋活動比はUT/MT、UT/LT が有意に減少した。【考察】体幹の回旋を加えることで1)scaption、2)2ndERにおいてはより大きな肩甲骨外旋や後傾を誘導し、またMT、LT筋活動を増大させることができた。上肢挙上時の上部胸椎の同側回旋と肩甲骨外旋には正の相関があるとされている。よって体幹の同側回旋により上部胸椎の回旋が生じ肩甲骨外旋は増加し、また肩甲骨外旋を引き出すためにMT、LTが促通され筋活動量が増加したと考えた。 MTやLTの活動が低下し、肩甲骨が内旋・前傾する患者にはこれらのエクササイズに体幹同側回旋を加えることが適していると示唆された。3) retraction90、4)retraction145 では体幹を同側回旋させても肩甲骨の外旋や後傾を誘導することはできなかった。retractionは肩甲骨外旋を大きく引き出す運動であると報告されており、そのため体幹回旋を加えたとしてもそれ以上の肩甲骨運動の変化は見られなかったと考えられる。しかし、UTと比較しMTやLTが選択的に筋活動しやすくなるため、UTを抑制しつつMTやLTの筋活動を高めたい場合には適していると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究で行った体幹回旋を加えたエクササイズエクササイズを肩関節疾患患者に対する従来のリハビリと組み合わせて用いることで、より効果的な理学療法を行うことができる可能性があり、臨床に生かせる理学療法研究として、本研究の意義は大きい。

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