著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
pp.11224, (Released:2016-11-26)
参考文献数
38

【目的】運動前後の棘下筋の即時的な筋断面積の変化を比較し,低負荷・低速度での肩関節外旋運動によって棘下筋に対してトレーニングによる刺激を与えることができるかどうかを明らかにすること。【方法】健常男性10 名を対象とし,負荷と運動速度をそれぞれ0.5 kg・5 秒条件,0.5 kg・1 秒条件,2.5 kg・1 秒条件の3 条件で肩関節外旋運動を行い,運動前後に棘下筋の筋断面積を超音波画像診断装置によって撮影した。また表面筋電図を用いて運動中の棘下筋と三角筋後部の筋活動を測定した。【結果】運動後の棘下筋の筋断面積は0.5 kg・5 秒条件で他の2 条件よりも有意に大きく増加した。棘下筋の運動中の平均筋活動量には条件間に有意な差はみられなかったが,運動1 セット中の棘下筋の筋活動量積分値は0.5 kg・5 秒条件で有意に大きかった。【結論】低負荷であっても運動速度を遅くすることで,棘下筋にトレーニング刺激を与えられることが明らかとなった。
著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.81-87, 2017 (Released:2017-04-20)
参考文献数
38

【目的】運動前後の棘下筋の即時的な筋断面積の変化を比較し,低負荷・低速度での肩関節外旋運動によって棘下筋に対してトレーニングによる刺激を与えることができるかどうかを明らかにすること。【方法】健常男性10 名を対象とし,負荷と運動速度をそれぞれ0.5 kg・5 秒条件,0.5 kg・1 秒条件,2.5 kg・1 秒条件の3 条件で肩関節外旋運動を行い,運動前後に棘下筋の筋断面積を超音波画像診断装置によって撮影した。また表面筋電図を用いて運動中の棘下筋と三角筋後部の筋活動を測定した。【結果】運動後の棘下筋の筋断面積は0.5 kg・5 秒条件で他の2 条件よりも有意に大きく増加した。棘下筋の運動中の平均筋活動量には条件間に有意な差はみられなかったが,運動1 セット中の棘下筋の筋活動量積分値は0.5 kg・5 秒条件で有意に大きかった。【結論】低負荷であっても運動速度を遅くすることで,棘下筋にトレーニング刺激を与えられることが明らかとなった。
著者
長谷川 聡 市橋 則明 松村 葵 宮坂 淳介 伊藤 太祐 吉岡 佑二 新井 隆三 柿木 良介
出版者
日本理学療法士学会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.41, no.2, pp.86-87, 2014-04-20 (Released:2017-06-28)

本研究では健常者と肩関節拘縮症例における上肢拳上時の肩甲帯の運動パターンとリハビリテーションによる変化を検証した。健常肩においては,多少のばらつきはみられるものの,肩甲骨の運動パターン,肩甲骨周囲筋の筋活動パターンは一定の傾向が得られた。上肢拳上30°〜120°の区間では,肩甲骨の上方回旋運動はほぼ直線的な角度増大を示すことがわかった。そのスムーズな角度変化を導くためには,僧帽筋上部,僧帽筋下部,前鋸筋の筋活動量のバランスが必要で,上肢拳上初期から約110°付近までは3筋がパラレルに活動量を増加させ,拳上終盤においては僧帽筋上部の活動量増加が止まり,僧帽筋下部と前鋸筋の活動量を増加させる必要があることが明らかとなった。肩関節拘縮症例では,上肢拳上による肩甲骨の運動パターンは多様であり,一定の傾向はみられなかったため,代表的な症例の経過を示した。
著者
山内 大士 松村 葵 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48101284, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】肩関節疾患患者では僧帽筋上部(UT)の過剰な筋活動と僧帽筋中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)の筋活動量低下が生じることが多い。また肩甲骨運動に関しては、挙上運動時に上方回旋・後傾・外旋が減少すると報告されている。そこで肩甲骨機能の改善を目的とした様々なエクササイズが考案され、臨床現場で実施されている。特に、体幹や股関節の運動を伴ったエクササイズは近位から遠位への運動連鎖を賦活し、肩甲骨機能の改善の一助となると考えられている。しかし、体幹運動を加えた時に実際に肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動がどのように変化するのかは不明である。本研究の目的は、肩関節エクササイズに対して体幹同側回旋を加えた運動と体幹回旋を行わない運動とを比較し、体幹回旋が肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常男性13 名とし、測定側は利き腕側とした。測定は6 自由度電磁気センサーを用い、肩甲骨・上腕骨の運動学的データを測定した。また、表面筋電計を用い、UT、MT、LT、SAの筋活動を導出した。動作課題は、1)立位で肩甲骨面挙上運動(scaption)、2)立位で肩関節90 度外転位、肘90 度屈曲位での肩関節外旋運動(2ndER)、3)腹臥位で肩関節90度外転・最大外旋位、肘90 度屈曲位での肩甲帯内転運動(retraction90)、4)腹臥位で肩関節145 度外転位、肘伸展位での肩甲帯内転運動(retraction145)とした。それぞれの運動について体幹を最終域まで運動側に回旋しながら行う場合と、体幹を回旋しない場合の2 条件を行った。運動は開始肢位から最大可動域まで(求心相)を2 秒で行い、1 秒静止した後2 秒で開始肢位に戻り開始肢位で1 秒静止させた。運動速度はメトロノームを用いて規定した。筋電図と電磁センサーは同期させてデータ収集を行った。肩甲骨角度は胸郭セグメントに対する肩甲骨セグメントの オイラー角を算出し、安静時から最大可動域までの運動角度変化量を求めた。筋活動は最大等尺性収縮時を100%として正規化し、求心相の平均筋活動量を求めた。 またMT、LT、SAに対するUTの筋活動比を算出した(UT/MT、UT/LT、UT/SA)。筋活動比は値が小さいほどUTと比較してMT、LT、SAを選択的に活動させていることを示す。統計処理はエクササイズごとにWilcoxon 符号付順位検定を用い、体幹回旋の有無について肩甲骨運動角度の変化量と肩甲骨周囲筋の平均筋活動量と筋活動比を比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被検者には十分な説明を行い、同意を得たうえで実験を行った。【結果】1)scaptionにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋・後傾が有意に増加した。筋活動はMT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MT、UT/LTが有意に減少した。2)2ndERにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋が有意に増加した。筋活動はUT、MT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MTが有意に減少した。3) retraction90、4)retraction145 において、体幹回旋を加えても外旋と後傾には変化がなかった。筋活動はUTが有意に減少した。筋活動比はUT/MT、UT/LT が有意に減少した。【考察】体幹の回旋を加えることで1)scaption、2)2ndERにおいてはより大きな肩甲骨外旋や後傾を誘導し、またMT、LT筋活動を増大させることができた。上肢挙上時の上部胸椎の同側回旋と肩甲骨外旋には正の相関があるとされている。よって体幹の同側回旋により上部胸椎の回旋が生じ肩甲骨外旋は増加し、また肩甲骨外旋を引き出すためにMT、LTが促通され筋活動量が増加したと考えた。 MTやLTの活動が低下し、肩甲骨が内旋・前傾する患者にはこれらのエクササイズに体幹同側回旋を加えることが適していると示唆された。3) retraction90、4)retraction145 では体幹を同側回旋させても肩甲骨の外旋や後傾を誘導することはできなかった。retractionは肩甲骨外旋を大きく引き出す運動であると報告されており、そのため体幹回旋を加えたとしてもそれ以上の肩甲骨運動の変化は見られなかったと考えられる。しかし、UTと比較しMTやLTが選択的に筋活動しやすくなるため、UTを抑制しつつMTやLTの筋活動を高めたい場合には適していると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究で行った体幹回旋を加えたエクササイズエクササイズを肩関節疾患患者に対する従来のリハビリと組み合わせて用いることで、より効果的な理学療法を行うことができる可能性があり、臨床に生かせる理学療法研究として、本研究の意義は大きい。
著者
松村 葵 建内 宏重 永井 宏達 中村 雅俊 大塚 直輝 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Aa0153, 2012

【はじめに、目的】 上肢拳上動作時の肩関節の機能的安定性のひとつに肩甲骨上方回旋における僧帽筋上部、下部線維と前鋸筋によるフォースカップル作用がある。これは僧帽筋上部、下部と前鋸筋がそれぞれ適切なタイミングでバランスよく作用することによって、スムーズな上方回旋を発生させて肩甲上腕関節の安定化を図る機能である。これらの筋が異常な順序で活動することによりフォースカップル作用が破綻し、肩甲骨の異常運動と肩関節の不安定性を高めることがこれまでに報告されている。しかし先行研究では主動作筋の筋活動の開始時点を基準として肩甲骨周囲筋の筋活動のタイミングを解析しており、実際の肩甲骨の上方回旋に対して肩甲骨周囲筋がどのようなタイミングで活動するかは明らかとなっていない。日常生活の場面では、さまざまな運動速度での上肢の拳上運動を行っている。先行研究において、拳上運動の肩甲骨運動は速度の影響を受けないと報告されている。しかし、運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響については明らかになっておらず、これを明らかにすることは肩関節の運動を理解するうえで重要な情報となりうる。本研究の目的は、上肢拳上動作の運動速度の変化が肩甲骨上方回旋に対する肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性10名(平均年齢22.3±1.0歳)とした。表面筋電図測定装置(Telemyo2400, Noraxon社製)を用いて僧帽筋上部(UT)・中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)、三角筋前部(AD)・三角筋中部(MD)の筋活動を導出した。また6自由度電磁センサー(Liberty, Polhemus社製)を肩峰と胸郭に貼付して三次元的に肩甲骨の運動学的データを測定した。動作課題は座位で両肩関節屈曲と外転を行った。測定側は利き腕側とした。運動速度は4秒で最大拳上し4秒で下制するslowと1秒で拳上し1秒で下制するfastの2条件とし、メトロノームによって規定した。各動作は5回ずつ行い、途中3回の拳上相を解析に用いた。表面筋電図と電磁センサーは同期させてデータ解析を行った。筋電図処理は50msの二乗平均平方根を求め、最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。肩甲骨の上方回旋角度は胸郭に対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた。肩甲骨上方回旋の運動開始時期は安静時の平均角度に標準偏差の3倍を加えた角度を連続して100ms以上超える時点とした。同様に筋活動開始時期は安静時平均筋活動に標準偏差の3倍を加えた値を連続して100ms以上超える時点とした。筋活動開始時期は雑音による影響を除外するために、筋電図データを確認しながら決定した。筋活動のタイミングは各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を求めることで算出し、3回の平均値を解析に用いた。統計処理には各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を従属変数とし、筋と運動速度を要因とする反復測定2元配置分散分析を用いた。事後検定として各筋についてのslowとfastの2条件をWilcoxon検定によって比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 屈曲動作において、slow条件ではAD、UT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfast条件では全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られ(p<0.01)、事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTの筋活動は有意に早く開始していた。外転動作において、slowではMD、UT、MT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfastでは全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られた(p<0.05)。事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTとLTの筋活動が有意に早く開始していた。【考察】 本研究の結果、運動速度を速くすることで屈曲動作においてMTが、また外転動作においてはMTとLTの筋活動のタイミングが早くなることが明らかとなった。また運動速度を速くすると、肩甲骨の上方回旋の開始時期よりもすべての肩甲骨固定筋が早い時期に活動し始めていた。これは運動速度が肩甲骨固定筋の活動順序に影響を及ぼすことを示唆している。拳上動作の運動速度を増加させたことにより、速い上腕骨の運動に対応するためにより肩甲骨の固定性を増大させるような戦略をとることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、運動速度に応じて肩甲骨固定筋に求められる筋活動が異なることが示唆され、速い速度での拳上動作では、肩甲骨の固定性を高めるために僧帽筋中部・下部の活動のタイミングに注目する必要があると考えられる。
著者
植田 篤史 松村 葵 相見 貴行 新熊 孝文 大木 毅 中村 康雄
出版者
一般社団法人 日本スポーツ理学療法学会
雑誌
スポーツ理学療法学 (ISSN:27584356)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.7-15, 2024 (Released:2023-09-30)
参考文献数
35

【目的】肩甲骨の運動異常(Scapular Dyskinesis:SDK)を有する野球選手の肩屈曲運動中の肩甲骨運動を評価すること。【方法】対象は肩挙上・下制時ならびに投球時に肩関節痛のない野球選手51名とした。SDKの評価はSDKを4つのtypeに分類し(type I~IV),type Iを認めた場合は異常群,type IVの場合は正常群とした。測定は肩屈曲動作を実施し,三次元動作解析装置を用いて,肩甲骨と肩関節の角度を算出した。解析区間は,肩屈曲30°~120°位の肩甲骨の上下方回旋,内外旋,前後傾角度を算出した。【結果】異常群の挙上期30°~90°の肩甲骨の後傾は正常群に比較して,有意に小さかった(p<0.05)。また,異常群の下制期30°~60°の肩甲骨前傾は正常群に比較して,有意に大きかった(p<0.01)。【結論】SDK type Iを有する無症状の野球選手の肩屈曲動作中の肩甲骨運動の特徴として,挙上期30°~90°の肩甲骨の過小な後傾と下制期30~60°の過剰な前傾運動を呈していることが明らかとなった。
著者
松村 葵 Aoi Matsumura
出版者
同志社大学
巻号頁・発行日
2019-03-22

本論文の目的は,体表から無侵襲に肩甲骨運動を推定する方法を確立すること,肩甲骨運動を拡大する運動介入としての肩甲骨エクササイズを明らかにすること,そのエクササイズが投球動作中の肩甲骨運動に与える即時的な効果を検討することとした.その結果,本研究で考案した推定方法によって肩甲骨姿勢の推定精度は向上した.また体幹運動をともなった肩甲骨エクササイズによって投球動作中の肩甲骨後傾運動が増加した.
著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100407, 2013

【はじめに、目的】 一般に棘下筋を含め腱板筋の筋力トレーニングは,三角筋などによる代償を防ぐために低負荷で行うことが推奨されている.しかし低負荷での棘下筋に対するトレーニング介入研究において,わずかに筋力増強が生じたという報告はあるが筋肥大が生じたという報告はなく,棘下筋に十分な運動ストレスを与えられているとは考えにくい. 近年,下肢筋を中心に低負荷であっても低速度で運動を行うことで,筋力増強や筋肥大がおこると報告されている.また運動の筋収縮時間が筋力トレーニング効果と関連するという報告もされている.よって運動速度を遅くすることで筋の収縮時間を長くすれば,より筋に運動ストレスを与えられると考えられる.実際に,我々は低負荷であっても低速度で持続的な運動を行えば,棘下筋は通常負荷・通常速度での運動よりも持続的な筋収縮によって筋活動量積分値が大きくなり,棘下筋に大きな運動ストレスを与えられることを報告している(日本体力医学会 2012年).しかし,低負荷・低速度肩外旋トレーニングが,棘下筋の筋断面積や筋力に与える影響は明確ではない. 本研究の目的は,低負荷・低速度での8週間の肩外旋筋力トレーニングが棘下筋の筋断面積と外旋筋力に及ぼす効果を明らかにすることである.【方法】 対象は健常男性14名とした.介入前に等尺性肩関節体側位(1st位)外旋筋力,棘下筋の筋断面積を測定した.対象者を低負荷・低速度トレーニング群(500gの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で5秒で外旋,5秒で内旋,1秒保持を10回,3セット)と通常負荷・通常速度トレーニング群(2.5kgの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で1秒で外旋,1秒で内旋,1秒安静を10回,3セット)の2群にランダムに群分けした.両群ともに運動は週3回8週間継続した.介入期間の途中に負荷量の増大はせず,介入4週までは研究者が運動を正しく実施できているか確認した.介入4週と8週終了時点で介入前と同様の項目を評価した.チェック表にて運動を実施した日を記録した. 棘下筋の筋断面積は超音波画像診断装置を用いて,肩峰後角と下角を結ぶ線に対して肩甲棘内側縁を通る垂直線上にプローブをあてて画像を撮影した.筋断面積は被験者の介入内容と評価時期がわからないように盲検化して算出した.等尺性外旋筋力は徒手筋力計を用いて3秒間の筋力発揮を2回行い,ピーク値を解析に使用した. 統計解析は棘下筋の筋断面積と外旋筋力に関して,トレーニング群と評価時期を2要因とする反復測定2元配置分散分析を用いて比較した.有意な交互作用が得られた場合には,事後検定としてHolm法補正による対応のあるt‐検定を用いて介入前に対して介入4週,8週を群内比較した.各統計の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 介入終了時点で両群とも脱落者はなく,トレーニング実施回数には高いコンプライアンスが得られた. 棘下筋の筋断面積に関して,評価時期に有意な主効果とトレーニング群と評価時期と間に有意な交互作用が得られた.事後検定の結果,低負荷・低速度トレーニング群では介入8週で介入前よりも有意に筋断面積が増加した(7.6%増加).通常負荷・通常速度トレーニング群では有意な差は得られなかった. 外旋筋力に関して,有意な主効果と交互作用は得られなかった.【考察】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で持続的な筋収縮によって,棘下筋の筋肥大が生じることが明らかになった.低速度で行うことで筋活動積分値が大きくなり,棘下筋により大きな運動ストレスを与えられる.また低負荷でも低速度で運動を行うことによって,低負荷・通常速度での運動よりも筋タンパク質の合成が高まるとされている.これらの影響によって,低負荷・低速度トレーニング群で筋肥大が生じたと考えられる. 低負荷・低速度トレーニング群では棘下筋の筋肥大は生じたが外旋筋力は増加しなかった.また,より高負荷である通常負荷・通常速度トレーニング群でも,外旋筋力の増加は生じなかった.本研究で用いた負荷量は低負荷・低速度で約4%MVC,通常負荷・通常速度で約20%MVCと神経性要因を高めるには十分な大きさではなかったことが,筋力が増加しなかった原因と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で運動を行うことで棘下筋を肥大させられることが明らかとなり,低負荷トレーニングにおいて運動速度を考慮する必要があることが示唆された.本研究は,棘下筋の筋萎縮があり,受傷初期や術後などで負荷を大きくできない場合に,低負荷でも低速度でトレーニングを実施することで筋肥大を起こす可能性を示した報告として意義がある.
著者
松村 葵 建内 宏重 永井 宏達 中村 雅俊 大塚 直輝 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.39 Suppl. No.2 (第47回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.Aa0153, 2012 (Released:2012-08-10)

【はじめに、目的】 上肢拳上動作時の肩関節の機能的安定性のひとつに肩甲骨上方回旋における僧帽筋上部、下部線維と前鋸筋によるフォースカップル作用がある。これは僧帽筋上部、下部と前鋸筋がそれぞれ適切なタイミングでバランスよく作用することによって、スムーズな上方回旋を発生させて肩甲上腕関節の安定化を図る機能である。これらの筋が異常な順序で活動することによりフォースカップル作用が破綻し、肩甲骨の異常運動と肩関節の不安定性を高めることがこれまでに報告されている。しかし先行研究では主動作筋の筋活動の開始時点を基準として肩甲骨周囲筋の筋活動のタイミングを解析しており、実際の肩甲骨の上方回旋に対して肩甲骨周囲筋がどのようなタイミングで活動するかは明らかとなっていない。日常生活の場面では、さまざまな運動速度での上肢の拳上運動を行っている。先行研究において、拳上運動の肩甲骨運動は速度の影響を受けないと報告されている。しかし、運動速度が肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響については明らかになっておらず、これを明らかにすることは肩関節の運動を理解するうえで重要な情報となりうる。本研究の目的は、上肢拳上動作の運動速度の変化が肩甲骨上方回旋に対する肩甲骨周囲筋の活動順序に与える影響を検討することである。【方法】 対象は健常男性10名(平均年齢22.3±1.0歳)とした。表面筋電図測定装置(Telemyo2400, Noraxon社製)を用いて僧帽筋上部(UT)・中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)、三角筋前部(AD)・三角筋中部(MD)の筋活動を導出した。また6自由度電磁センサー(Liberty, Polhemus社製)を肩峰と胸郭に貼付して三次元的に肩甲骨の運動学的データを測定した。動作課題は座位で両肩関節屈曲と外転を行った。測定側は利き腕側とした。運動速度は4秒で最大拳上し4秒で下制するslowと1秒で拳上し1秒で下制するfastの2条件とし、メトロノームによって規定した。各動作は5回ずつ行い、途中3回の拳上相を解析に用いた。表面筋電図と電磁センサーは同期させてデータ解析を行った。筋電図処理は50msの二乗平均平方根を求め、最大等尺性収縮時の筋活動を100%として正規化した。肩甲骨の上方回旋角度は胸郭に対する肩甲骨セグメントのオイラー角を算出することで求めた。肩甲骨上方回旋の運動開始時期は安静時の平均角度に標準偏差の3倍を加えた角度を連続して100ms以上超える時点とした。同様に筋活動開始時期は安静時平均筋活動に標準偏差の3倍を加えた値を連続して100ms以上超える時点とした。筋活動開始時期は雑音による影響を除外するために、筋電図データを確認しながら決定した。筋活動のタイミングは各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を求めることで算出し、3回の平均値を解析に用いた。統計処理には各筋の筋活動開始時期と肩甲骨上方回旋の運動開始時期の差を従属変数とし、筋と運動速度を要因とする反復測定2元配置分散分析を用いた。事後検定として各筋についてのslowとfastの2条件をWilcoxon検定によって比較した。有意水準は0.05とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た。なお本研究は本学倫理委員会の承認を得ている。【結果】 屈曲動作において、slow条件ではAD、UT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfast条件では全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られ(p<0.01)、事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTの筋活動は有意に早く開始していた。外転動作において、slowではMD、UT、MT、SAが肩甲骨上方回旋よりも早く活動を開始していた。一方でfastでは全ての筋が上方回旋よりも早く活動を開始していた。分散分析の結果、筋と運動速度の間に有意な交互作用が得られた(p<0.05)。事後検定の結果、運動速度が速くなることでMTとLTの筋活動が有意に早く開始していた。【考察】 本研究の結果、運動速度を速くすることで屈曲動作においてMTが、また外転動作においてはMTとLTの筋活動のタイミングが早くなることが明らかとなった。また運動速度を速くすると、肩甲骨の上方回旋の開始時期よりもすべての肩甲骨固定筋が早い時期に活動し始めていた。これは運動速度が肩甲骨固定筋の活動順序に影響を及ぼすことを示唆している。拳上動作の運動速度を増加させたことにより、速い上腕骨の運動に対応するためにより肩甲骨の固定性を増大させるような戦略をとることが考えられる。【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果、運動速度に応じて肩甲骨固定筋に求められる筋活動が異なることが示唆され、速い速度での拳上動作では、肩甲骨の固定性を高めるために僧帽筋中部・下部の活動のタイミングに注目する必要があると考えられる。
著者
山内 大士 松村 葵 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101284, 2013

【はじめに、目的】肩関節疾患患者では僧帽筋上部(UT)の過剰な筋活動と僧帽筋中部(MT)・下部(LT)、前鋸筋(SA)の筋活動量低下が生じることが多い。また肩甲骨運動に関しては、挙上運動時に上方回旋・後傾・外旋が減少すると報告されている。そこで肩甲骨機能の改善を目的とした様々なエクササイズが考案され、臨床現場で実施されている。特に、体幹や股関節の運動を伴ったエクササイズは近位から遠位への運動連鎖を賦活し、肩甲骨機能の改善の一助となると考えられている。しかし、体幹運動を加えた時に実際に肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動がどのように変化するのかは不明である。本研究の目的は、肩関節エクササイズに対して体幹同側回旋を加えた運動と体幹回旋を行わない運動とを比較し、体幹回旋が肩甲骨運動や肩甲骨周囲筋の筋活動に及ぼす影響を明らかにすることである。【方法】対象は健常男性13 名とし、測定側は利き腕側とした。測定は6 自由度電磁気センサーを用い、肩甲骨・上腕骨の運動学的データを測定した。また、表面筋電計を用い、UT、MT、LT、SAの筋活動を導出した。動作課題は、1)立位で肩甲骨面挙上運動(scaption)、2)立位で肩関節90 度外転位、肘90 度屈曲位での肩関節外旋運動(2ndER)、3)腹臥位で肩関節90度外転・最大外旋位、肘90 度屈曲位での肩甲帯内転運動(retraction90)、4)腹臥位で肩関節145 度外転位、肘伸展位での肩甲帯内転運動(retraction145)とした。それぞれの運動について体幹を最終域まで運動側に回旋しながら行う場合と、体幹を回旋しない場合の2 条件を行った。運動は開始肢位から最大可動域まで(求心相)を2 秒で行い、1 秒静止した後2 秒で開始肢位に戻り開始肢位で1 秒静止させた。運動速度はメトロノームを用いて規定した。筋電図と電磁センサーは同期させてデータ収集を行った。肩甲骨角度は胸郭セグメントに対する肩甲骨セグメントの オイラー角を算出し、安静時から最大可動域までの運動角度変化量を求めた。筋活動は最大等尺性収縮時を100%として正規化し、求心相の平均筋活動量を求めた。 またMT、LT、SAに対するUTの筋活動比を算出した(UT/MT、UT/LT、UT/SA)。筋活動比は値が小さいほどUTと比較してMT、LT、SAを選択的に活動させていることを示す。統計処理はエクササイズごとにWilcoxon 符号付順位検定を用い、体幹回旋の有無について肩甲骨運動角度の変化量と肩甲骨周囲筋の平均筋活動量と筋活動比を比較した。有意水準は5%とした。【倫理的配慮、説明と同意】被検者には十分な説明を行い、同意を得たうえで実験を行った。【結果】1)scaptionにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋・後傾が有意に増加した。筋活動はMT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MT、UT/LTが有意に減少した。2)2ndERにおいて、体幹回旋を加えることで肩甲骨外旋が有意に増加した。筋活動はUT、MT、LTが有意に増大した。筋活動比はUT/MTが有意に減少した。3) retraction90、4)retraction145 において、体幹回旋を加えても外旋と後傾には変化がなかった。筋活動はUTが有意に減少した。筋活動比はUT/MT、UT/LT が有意に減少した。【考察】体幹の回旋を加えることで1)scaption、2)2ndERにおいてはより大きな肩甲骨外旋や後傾を誘導し、またMT、LT筋活動を増大させることができた。上肢挙上時の上部胸椎の同側回旋と肩甲骨外旋には正の相関があるとされている。よって体幹の同側回旋により上部胸椎の回旋が生じ肩甲骨外旋は増加し、また肩甲骨外旋を引き出すためにMT、LTが促通され筋活動量が増加したと考えた。 MTやLTの活動が低下し、肩甲骨が内旋・前傾する患者にはこれらのエクササイズに体幹同側回旋を加えることが適していると示唆された。3) retraction90、4)retraction145 では体幹を同側回旋させても肩甲骨の外旋や後傾を誘導することはできなかった。retractionは肩甲骨外旋を大きく引き出す運動であると報告されており、そのため体幹回旋を加えたとしてもそれ以上の肩甲骨運動の変化は見られなかったと考えられる。しかし、UTと比較しMTやLTが選択的に筋活動しやすくなるため、UTを抑制しつつMTやLTの筋活動を高めたい場合には適していると示唆された。【理学療法学研究としての意義】本研究で行った体幹回旋を加えたエクササイズエクササイズを肩関節疾患患者に対する従来のリハビリと組み合わせて用いることで、より効果的な理学療法を行うことができる可能性があり、臨床に生かせる理学療法研究として、本研究の意義は大きい。
著者
松村 葵 建内 宏重 中村 雅俊 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.40 Suppl. No.2 (第48回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.48100407, 2013 (Released:2013-06-20)

【はじめに、目的】 一般に棘下筋を含め腱板筋の筋力トレーニングは,三角筋などによる代償を防ぐために低負荷で行うことが推奨されている.しかし低負荷での棘下筋に対するトレーニング介入研究において,わずかに筋力増強が生じたという報告はあるが筋肥大が生じたという報告はなく,棘下筋に十分な運動ストレスを与えられているとは考えにくい. 近年,下肢筋を中心に低負荷であっても低速度で運動を行うことで,筋力増強や筋肥大がおこると報告されている.また運動の筋収縮時間が筋力トレーニング効果と関連するという報告もされている.よって運動速度を遅くすることで筋の収縮時間を長くすれば,より筋に運動ストレスを与えられると考えられる.実際に,我々は低負荷であっても低速度で持続的な運動を行えば,棘下筋は通常負荷・通常速度での運動よりも持続的な筋収縮によって筋活動量積分値が大きくなり,棘下筋に大きな運動ストレスを与えられることを報告している(日本体力医学会 2012年).しかし,低負荷・低速度肩外旋トレーニングが,棘下筋の筋断面積や筋力に与える影響は明確ではない. 本研究の目的は,低負荷・低速度での8週間の肩外旋筋力トレーニングが棘下筋の筋断面積と外旋筋力に及ぼす効果を明らかにすることである.【方法】 対象は健常男性14名とした.介入前に等尺性肩関節体側位(1st位)外旋筋力,棘下筋の筋断面積を測定した.対象者を低負荷・低速度トレーニング群(500gの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で5秒で外旋,5秒で内旋,1秒保持を10回,3セット)と通常負荷・通常速度トレーニング群(2.5kgの重錘を負荷し側臥位肩関節1st位で1秒で外旋,1秒で内旋,1秒安静を10回,3セット)の2群にランダムに群分けした.両群ともに運動は週3回8週間継続した.介入期間の途中に負荷量の増大はせず,介入4週までは研究者が運動を正しく実施できているか確認した.介入4週と8週終了時点で介入前と同様の項目を評価した.チェック表にて運動を実施した日を記録した. 棘下筋の筋断面積は超音波画像診断装置を用いて,肩峰後角と下角を結ぶ線に対して肩甲棘内側縁を通る垂直線上にプローブをあてて画像を撮影した.筋断面積は被験者の介入内容と評価時期がわからないように盲検化して算出した.等尺性外旋筋力は徒手筋力計を用いて3秒間の筋力発揮を2回行い,ピーク値を解析に使用した. 統計解析は棘下筋の筋断面積と外旋筋力に関して,トレーニング群と評価時期を2要因とする反復測定2元配置分散分析を用いて比較した.有意な交互作用が得られた場合には,事後検定としてHolm法補正による対応のあるt‐検定を用いて介入前に対して介入4週,8週を群内比較した.各統計の有意水準は5%とした.【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には研究の内容を十分に説明し同意を得た.本研究は本学倫理委員会の承認を得て実施した.【結果】 介入終了時点で両群とも脱落者はなく,トレーニング実施回数には高いコンプライアンスが得られた. 棘下筋の筋断面積に関して,評価時期に有意な主効果とトレーニング群と評価時期と間に有意な交互作用が得られた.事後検定の結果,低負荷・低速度トレーニング群では介入8週で介入前よりも有意に筋断面積が増加した(7.6%増加).通常負荷・通常速度トレーニング群では有意な差は得られなかった. 外旋筋力に関して,有意な主効果と交互作用は得られなかった.【考察】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で持続的な筋収縮によって,棘下筋の筋肥大が生じることが明らかになった.低速度で行うことで筋活動積分値が大きくなり,棘下筋により大きな運動ストレスを与えられる.また低負荷でも低速度で運動を行うことによって,低負荷・通常速度での運動よりも筋タンパク質の合成が高まるとされている.これらの影響によって,低負荷・低速度トレーニング群で筋肥大が生じたと考えられる. 低負荷・低速度トレーニング群では棘下筋の筋肥大は生じたが外旋筋力は増加しなかった.また,より高負荷である通常負荷・通常速度トレーニング群でも,外旋筋力の増加は生じなかった.本研究で用いた負荷量は低負荷・低速度で約4%MVC,通常負荷・通常速度で約20%MVCと神経性要因を高めるには十分な大きさではなかったことが,筋力が増加しなかった原因と考えられる.【理学療法学研究としての意義】 本研究の結果,低負荷であっても低速度で運動を行うことで棘下筋を肥大させられることが明らかとなり,低負荷トレーニングにおいて運動速度を考慮する必要があることが示唆された.本研究は,棘下筋の筋萎縮があり,受傷初期や術後などで負荷を大きくできない場合に,低負荷でも低速度でトレーニングを実施することで筋肥大を起こす可能性を示した報告として意義がある.
著者
大塚 直輝 建内 宏重 永井 宏達 松村 葵 市橋 則明
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ce0109, 2012

【はじめに、目的】 ミリタリープレス(Military press:以下MP) は臨床現場で一般的に行われているリハビリテーションプログラムの1 つであり,肘関節屈曲位で肩関節前方に重錘を保持した肢位を開始肢位として,肘関節伸展しながら肩関節を挙上する動作である。MPは多くの先行研究でリハビリテーションプログラムとしての有用性が示されており,臨床現場では通常の挙上に比べてMPでより容易に拳上可能となることが経験される。しかしながら,通常の拳上に対してMP時の肩甲帯の運動学的,筋電図学的変化について詳細に分析した研究はない。肩関節疾患患者のリハビリテーションでは肩甲骨・鎖骨運動の誘導や,肩関節周囲筋の賦活に焦点を当てることが多く,MP時の運動学的、筋電図学的特徴を知ることは、運動療法の中でのMPの適応を明らかにするために重要な情報となりうる。本研究では,MP時の肩甲帯の動態と肩関節周囲筋の筋活動の特徴を明らかにすることを目的とした。【方法】 対象は健常成人男性 16名(21.8 ± 1.1歳)とし、測定側は利き手側とした。測定には 6 自由度電磁センサー(POLHEMUS 社製, LIBERTY)と表面筋電図(Noraxon社製, TeleMyo2400)を用い,これらを同期して上肢拳上時の肩甲帯の運動学的データと肩関節周囲筋の筋電図学的データを収集した。筋電図は三角筋、僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋に貼付した。拳上方法は上肢矢状面拳上(以下:SE)とMPとし、それぞれに無負荷条件と2 kg重錘負荷条件を設定した。測定は椅坐位にて4秒間で下垂位から最大拳上する動作をそれぞれ5回ずつ行い,間3回の平均値を解析に用いた。運動学的データは胸郭に対しての上肢拳上角度,肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度,鎖骨拳上・後方並進角度を算出し,筋電図学的データは最大等尺性随意収縮時の筋活動を100%として正規化した。また負荷による影響を除外するため,上肢拳上の主動作筋である三角筋の筋活動に対する僧帽筋上部・中部・下部、前鋸筋筋活動の比を算出した。解析区間は上肢拳上30 - 120°とし、30°より10°毎の肩甲骨・鎖骨角度、筋活動比を算出した。なお筋活動比は,各解析時点の前後100 msec間の平均値とした。統計学的処理には肩甲骨・鎖骨角度および,各筋の筋活動比を従属変数とし,拳上方法(SE, MP)、負荷(無負荷, 2 kg)、上肢拳上角度(30 - 120°)を三要因とする反復測定三元配置分散分析を用いた。有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 対象者には,実験の目的および内容を口頭,書面にて説明し,研究参加への同意を得た。【結果】 肩甲骨外旋角度は,負荷に関わらず拳上初期~中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。上方回旋角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.01)。後傾角度は,負荷に関わらず拳上中期でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01,拳上方法・角度間交互作用:p < 0.01)。鎖骨後方並進角度は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた(挙上方法主効果: p < 0.01)。鎖骨拳上角度では,挙上方法による有意な違いがみられなかった。三角筋に対する僧帽筋上部,前鋸筋の筋活動は,負荷に関わらず拳上全範囲でMPの方がSEよりも増加していた (挙上方法主効果: p < 0.05)。三角筋に対する僧帽筋中部・下部の筋活動では,それぞれ挙上方法による有意な違いがみられなかった。【考察】 本研究の結果,MPではSEと比較して、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾と鎖骨後方並進が増加することが明らかとなった。またMPではSEと比較して,三角筋に対する僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加することが明らかとなった。肩甲骨・鎖骨運動と肩甲骨周囲筋の筋活動に関して負荷の有無による差は見られなかったため,上記の運動学的・筋電図学的変化はMP時に特異的な運動・筋活動様式であることが考えられる。前鋸筋は特に肩甲骨上方回旋に関わる筋であり,さらに前鋸筋の活動が肩甲骨外旋や後傾にもつながるとされている。また僧帽筋上部の活動は鎖骨後方並進を生み出すとされている。MPでは負荷に対して僧帽筋上部と前鋸筋の筋活動が増加したため、肩甲骨外旋・上方回旋・後傾運動と鎖骨後方並進が増加したと考えられる。【理学療法学研究としての意義】 上肢拳上時の肩甲骨外旋・上方回旋・後傾角度、鎖骨後方並進角度の減少は、様々な肩関節疾患患者で見られる現象である。本研究結果より、MPは前述の特徴を示す肩関節疾患患者の肩甲骨・鎖骨運動を誘導するトレーニングとして有用であると考えられる。