著者
立見 淳哉 筒井 一伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

都市から農山村への移住に注目が寄せられ,この現象をどのように理解するかをめぐって,様々な議論が行なわれている。とりわけ大きな影響力を持ったのが,2014年5月のいわゆる増田レポートにはじまる自治体消滅論と「地方創生」をめぐる政策動向である。これに対応するように,移住を行政の人口減少対策として位置付け,地方における「人口」増加に期待する議論が活発に行われてきた。 しかしながら全国の人口推計の結果などを考慮すると,移住による「人口」増加効果は限定的であるのも事実である。報告者の一人である筒井は,人口増加という数的な効果よりもむしろ,新たな人材の流入が既存の農山村コミュニティに,考え・年齢構成・技術・技能等の多様性をもたらし,新たな地域づくりにつながる効果を強調してきた。人口を重視する議論を「人口移動論的田園回帰」とするならば,後者の観点は「地域づくり論的田園回帰」と呼ぶことができる。この「地域づくり論的田園回帰」論は,地域の社会関係や資源との関わりの中で,移住者が自身の「なりわい」とそれを支える関係性(ネットワーク)を新たに形成していく過程に着目するものである。農山村における地域づくりという文脈における,移住者の「なりわい」づくりの「質」的な意義と言い換えても良い。 本報告では,この議論の延長として,筒井らが「なりわい」や「継業」という概念提起を通じて示そうとしてきたような,「田園回帰」のなかで少しづつ形を現しかけているように見える,社会・経済の特質を,私的利益の極大化を目指す通常の「経済」とは異なる「もう一つの経済」という視点から理論的な検討を試みるものである。 参照軸となるのは,フランスを中心とした諸国で,2000年代に入って急速に影響力を増しつつある「連帯経済Solidality Economy」の実践と理論的内容である。そして,連帯経済のガヴァナンスのあり方に関しては,イギリスで提唱され,日本では小田切らを中心に紹介されてきたネオ内発的発展論Neo-endogenous developmentとも親和性があり,この概念を媒介させることで,連帯経済と田園回帰をめぐる議論を架橋することを目指す。 理論的には,連帯経済に関する概念化を担ってきた(一部の,しかし影響力のある)研究者たちが参照し,あるいは近い関係にある,アクターネットワーク理論ANTやコンヴァンシオン理論を本報告でも上記の作業を行う上での導きの糸としたい。<br>

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[ANT] ネオ内発的発展論・・・!?

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