著者
筒井 一伸 澤端 智良
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.35-49, 2010 (Released:2010-08-23)
参考文献数
18
被引用文献数
3 4 1

日本国内におけるグリーン・ツーリズムの展開が始まってから15年以上が経過したが,その主たる顧客対象は国内都市住民に限定されてきた.その結果,「ありのままの地域資源」を活かしたグリーン・ツーリズムでは地域間の差別化が十分に図れず,都市住民という共通の市場を奪い合う「グリーン・ツーリズムのジレンマ」と称される事態に陥っている.一方,2003年からの「ビジット・ジャパン・キャンペーン」の展開によって国際的な観光立国に向けた動きが始まり,外国人観光客を対象としたグリーン・ツーリズムの萌芽もみられ始めている.本報告ではマーケティング分析の視点から,グリーン・ツーリズムにおいてどのような外国人市場が考えられるのかを分析するとともに,先発事例である富山県立山町と青森県十和田市の事例分析からその背景と課題を明らかにする.
著者
立見 淳哉 筒井 一伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

都市から農山村への移住に注目が寄せられ,この現象をどのように理解するかをめぐって,様々な議論が行なわれている。とりわけ大きな影響力を持ったのが,2014年5月のいわゆる増田レポートにはじまる自治体消滅論と「地方創生」をめぐる政策動向である。これに対応するように,移住を行政の人口減少対策として位置付け,地方における「人口」増加に期待する議論が活発に行われてきた。 しかしながら全国の人口推計の結果などを考慮すると,移住による「人口」増加効果は限定的であるのも事実である。報告者の一人である筒井は,人口増加という数的な効果よりもむしろ,新たな人材の流入が既存の農山村コミュニティに,考え・年齢構成・技術・技能等の多様性をもたらし,新たな地域づくりにつながる効果を強調してきた。人口を重視する議論を「人口移動論的田園回帰」とするならば,後者の観点は「地域づくり論的田園回帰」と呼ぶことができる。この「地域づくり論的田園回帰」論は,地域の社会関係や資源との関わりの中で,移住者が自身の「なりわい」とそれを支える関係性(ネットワーク)を新たに形成していく過程に着目するものである。農山村における地域づくりという文脈における,移住者の「なりわい」づくりの「質」的な意義と言い換えても良い。 本報告では,この議論の延長として,筒井らが「なりわい」や「継業」という概念提起を通じて示そうとしてきたような,「田園回帰」のなかで少しづつ形を現しかけているように見える,社会・経済の特質を,私的利益の極大化を目指す通常の「経済」とは異なる「もう一つの経済」という視点から理論的な検討を試みるものである。 参照軸となるのは,フランスを中心とした諸国で,2000年代に入って急速に影響力を増しつつある「連帯経済Solidality Economy」の実践と理論的内容である。そして,連帯経済のガヴァナンスのあり方に関しては,イギリスで提唱され,日本では小田切らを中心に紹介されてきたネオ内発的発展論Neo-endogenous developmentとも親和性があり,この概念を媒介させることで,連帯経済と田園回帰をめぐる議論を架橋することを目指す。 理論的には,連帯経済に関する概念化を担ってきた(一部の,しかし影響力のある)研究者たちが参照し,あるいは近い関係にある,アクターネットワーク理論ANTやコンヴァンシオン理論を本報告でも上記の作業を行う上での導きの糸としたい。<br>
著者
筒井 一伸 小関 久恵
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.1-21, 2023 (Released:2023-01-07)
参考文献数
25

政策的議論が本格化して15年近く経過した地域運営組織(RMO)は2020年度には5,783まで増加した.RMOは平成の市町村合併で広域化したことによる地域課題への対応を目指した,2000年代の第二次コミュニティブームの時期に設立されたものが多いが,1970年代前半からの第一次コミュニティブームの中で設立されたものもある.本稿では,前者の例として山形県酒田市日向(にっこう)地区,後者の例として鶴岡市三瀬地区のRMOを事例にその再編過程の実態を明らかにした.その結果,RMO設立という組織再編だけではなく,社会的背景に応じた機能再編が図られているものの,RMOがもつ機能には時代性があり,それにより分離型と一体型の志向性の違いが読み取れた.また三瀬地区ではRMO設立に伴い,基盤となる地区の空間再編が行われたことも明らかになった.
著者
小林 悠歩 筒井 一伸
出版者
農村計画学会
雑誌
農村計画学会誌 (ISSN:09129731)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.320-327, 2018-12-30 (Released:2019-12-30)
参考文献数
15
被引用文献数
3

The purpose of this study is to reveal the characteristics of activities for maintaining rural community by collaboration with non-residents of family members by focusing on the case of Nishiotaki, Iiyama City, Nagano Prefecture. As a result of our survey, it was revealed that there are three types of way non-residents of family members are involved with community activities: participation in only recreational activities; participation in only required activities; and participation in both recreational and required activities. It was also found that year after year, the number of the non-residents who are involved with community events or associations has increased, but the number of them is limited, because some of them have more than one role in the community and all of them are not interested in the community activities. Therefore, it is necessary to think to involve non-residents who are not family members in the community activities.
著者
酒井 扶美 立見 淳哉 筒井 一伸
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
E-journal GEO (ISSN:18808107)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.14-28, 2020 (Released:2020-01-01)
参考文献数
13
被引用文献数
5

「田園回帰」という言葉で,都市から農山村への移住に注目が寄せられている.しかし,農山村への移住者の増加による新たな「なりわい」の創造と,自治体をはじめ多様な主体が行う起業支援とは密接にかかわっていると考えられる一方,その実態についての調査研究は十分には行われていない.これに対し,本稿では,兵庫県丹波市を事例に,特に制度的な起業支援のみならず,移住者と地域住民との起業を介した新しい関係性の上で,どのようなサポートが生み出されているのか,その詳細な実態を明らかにした.移住起業のサポート実態を理解する上で,単に制度的なサポートだけではなく,地域における様々な主体が行なっている支援の総体を把握する重要性を改めて示すことができた.
著者
HUONG Do Thi Viet 長澤 良太 筒井 一伸
出版者
The Japanese Agricultural Systems Society
雑誌
システム農学 (ISSN:09137548)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.123-134, 2013-07-10 (Released:2015-06-04)
参考文献数
22

洪水は、世界の各地において頻繁に発生し、且つ広域に及んで災害リスクをもたらす現象である。洪水危険地域への都市の拡大や気候変動による洪水のリスクの増大は、今後一層高まることが危惧される。ヴェトナム中部に位置するダナン市は、近年同国において最も都市化が著しい地域のひとつである。ダナン市では過去10 年間に数回洪水災害を経験し、人命、農業生産、社会基盤が甚大な被害を受け経済活動は混沌たるものになった。そこで、本研究ではリモートセンシングと地理情報システムの手法を用いて、都市の拡大と洪水リスクの関係について検討を行った。まず、時系列のLandsat TM/ETM 画像と多季節で取得したALOS 画像の解析によって1990 年、2001 年、2007年および2010 年の土地利用・被覆分類図を作成し、都市の拡大過程を明らかにした。次に、ASTER GDEM(30 m解像度)を用いて流向特性を図化するとともに、ALOS PALSAR 画像から過去の洪水氾濫の範囲を復原し、それらを統合することで潜在的な洪水ハザードの度合いを解析した。最終的な洪水リスクは、こうして得られた洪水ハザード危険度と人口データに基づいた洪水脆弱性との重ね合わせによって解析した。その結果、ダナン市では過去20 年間に都市域が約220%の割合で増加し、その拡大方向は特に既成市街地から西部、北西部、南部および海岸線に沿って顕著であった。洪水リスク危険度の相対的に高い地域は、河川の堤防沿いや低地のなかに存在する凹地地形に多く見られた。過去20 年間(1990 年~2010 年)に拡大した都市域と洪水リスク危険地域を重ね合わせた結果、より危険度の高い個所に都市化が進行している個所が確認された。こうした洪水リスクの高い地域への都市の拡大は1990年~2001 年間の1.9 %から2007 年~2010 年間の3.5 %へ2 倍近く増加していることが明らかにされた。
著者
筒井 一伸 佐藤 里美
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.90-104, 2002-04-28

Since the end of the Second World War, rural Japan has experienced continuing depopulation. To revitalize rural areas, local governments have attempted to promote interregional exchanges. One important policy measure for such exchanges is to hold rural products fairs in urban areas. In general, the major purpose of these fairs is to introduce and sell products to new markets. The purpose of our study is to examine whether these fairs can play an effective and practical role in promoting interregional exchanges by focusing on the actors who plan and participate in these fairs. As a case for this study, we chose to examine some rural products fairs of Yamagata Prefecture which were held in several department stores in Osaka City. The results of our study are as follows. First, for every department store, the fairs serve as an important means for sales promotion. Therefore such the fair tends to lack the element of entertainment. The local governments put an importance not on entertaining the visitors but on selling rural products because they cannot ignore the intention of department stores. Second, the companies that participate in the fairs not only pursue the sale of rural products for the purpose of market expansion, but also intend to enlarge interregional exchanges by displaying rural products. Our analysis of visitors' preferences shows that visitors expect to experience a rural atmosphere as well as to purchase rural products. They also tend to become interested in Yamagata Prefecture after they visit the fairs. Our study concludes that rural products fairs seem to contribute to the promotion of interregional exchanges.