著者
松本 太 石井 康一郎 山口 隆子 安藤 晴夫 三上 岳彦 福岡 義隆
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.142, 2004

1. はじめに 近年,地球温暖化とヒートアイランドによる温暖化に呼応して都市域では開花が早くなったり,紅葉が遅くなったりするなど,植物季節に変化が見られるようになったといわれている.そこで,松本・福岡(2003)は,埼玉県熊谷市を例として,2001年春に,都市の気温分布とソメイヨシノ(Prunus yedoensis)の開花日の局地差との関係を調査した.その結果,ソメイヨシノの開花日の分布に関しては都心部の高温域で早く,都市郊外の低温域で遅い傾向がみられ,ヒートアイランドが開花日に影響を与えていることが明らかになった.しかし,ヒートアイランドの調査は移動観測によって行われたために,開花日に影響を与えると考えられる積算気温と開花日との関係を詳細に検討するまでには至っていない.したがって,常時気象観測データが得られるような条件下でそれらの関係を検討する必要がある. 東京都環境科学研究所および東京都立大学(三上研究室)では東京都区内100カ所の小学校で百葉箱に自記録式の温湿度計を設置し,毎時10分間間隔で観測を行っている(METROS100).そこで,本研究では2004年春,それらの小学校のうち都心部から郊外部にかけての数地点を選定し,小学校内あるいは近辺におけるソメイヨシノの開花日の調査を行った.そして積算気温に着目しつつ,東京都区部におけるソメイヨシノの開花日に及ぼすヒートアイランドの影響について評価することを試みた.2. 調査方法ソメイヨシノの開花日の観察は2月下旬_から_3月下旬まで東京都区内,中央区,千代田区などを都心部,練馬区付近を郊外部として,当該地域の小学校や小学校付近の公園などを巡回し,調査を行った(図1).開花日の基準については気象庁の生物季節観測指針に従って判断した.すなわち1本の観察木で5,6輪以上の開花がみられた期日をもって開花日とした.なお,本研究では一つの地点で2本以上の木がある場合には,50%の木が開花したの基準に達した日を開花日とした. 3. 結果2004年は2月から3月にかけて,平年よりかなり気温が高く推移したために,気象庁発表では東京(靖国神社)はソメイヨシノ開花日の観測史上2番目に早い3月18日の開花となった.本研究で調査した地点では開花日は都心部の高温域で早く,郊外部の低温域で遅い傾向が見られ,都心部の早いところで開花日が3月18日であり,郊外部との開花日の局地差は最大で6日であった.よって,東京都区部においてもヒートアイランド現象が開花日に影響を与えていると考えられる.また,都心部と郊外部における開花日は各々におけるある起算日からの積算気温の変化傾向に相対的に対応している.以上のことから,ヒートアイランド現象によって都心部,郊外部におけるソメイヨシノの開花過程に影響を与える積算気温の推移に局地差が生じ,結果的に都市内外における開花日の局地差につながっていると考察された.謝辞2002年のMETROS100のシステム立ち上げ以来,東京都環境科学研究所の横山仁氏,市野美夏氏,秋山祐佳里氏,小島茂喜氏,現東京都水道局金町浄水場の塩田 勉氏,江戸川大学の森島 済氏,東京都立大学の泉 岳樹氏には,気象データの処理などに関して,多大なご尽力をいただきました.ここに記して深くお礼申し上げます.

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