著者
安仁屋 政武 幸島 司郎 小林 俊一 成瀬 廉二 白岩 孝行 リベラ アンドレ カサッサ ジーノ 和泉 薫
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1998年は北パタゴニア氷原のソレール氷河とソレール河谷を対象とした研究が行われ、以下のような知見を得た。完新世の氷河変動の研究では、ソレール氷河とソレール河谷のモレイン分布調査から、ヤンガー・ドライアス(約10,500前)と2000BPの氷期が推定されるが、詳しくは年代測定結果が出るのを待っている。ソレール氷河では流動、表面プロファイル、歪みを調査し、さらに水文観測と気象観測を行い、氷河のダイナミクスとの関係を考察した。これにより、底面辷りが流動に大きな割合を占めていることが示された。さらに表面プロファイルの測定から、1985年以来、42m±5m表面高度が減少したことが判明した。年平均に直すと3.2m±5mである。1998年撮影の北パタゴニア氷原溢流氷河末端の空中写真から、1995年(前回調査)以後の氷河変動を抽出した。これによると、1つの氷河(サン・ラファエル氷河)を除き全てが後退していた。さらに1999年撮影の空中写真からは興味深いことが判明した。それは1990年以降唯一前進していたサン・ラファエル氷河が、1998年から1999年にかけて後退したことである。このことから、1990年以降の前進は、従来考えられていた1970年代の雨量増加というよりも、フィヨルドの地形と氷河ダイナミクスによる公算が大きくなった。1999年度の調査は南氷原のティンダール氷河の涵養域(標高1760m)でボーリングを行い、現地観察に加えて46mのアイス・コアの採取に成功した。詳しい化学分析はこれからである。ペリート・モレーノ氷河では写真測量によるカーピング活動の記録と氷河流動の推定、さらに湖面の津波観測によるカービング量の推定を行った。また、氷河周辺の湖の水深を測定した結果、深いところで80m程度であった。同じく、ウプサラ氷河が流入しているBrazo Upsalaの水深を測定したが、深いところは700m近くあり、氷河のカービングとダイナミクス、後退などを解析する上で重要なデータとなる。