著者
成瀬 廉二
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.252-267, 1994-11

第34次南極地域観測隊は, 越冬隊(佐藤夏雄隊長)39名, 夏隊(成瀬廉二副隊長)16名で編成され, さらに交換科学者として, 中国から1名が越冬隊に, オーストラリアから1名が夏隊に参加した。砕氷艦「しらせ」は, 1992年11月14日東京港を出港し, 12月17日からリュツォ・ホルム湾の厚さ2∿3m強の定着氷に入り, 砕氷航行の後, 30日昭和基地に接岸した。12月18日から昭和基地へのヘリコプターによる輸送が始まり, 接岸後の氷上輸送, 貨油輸送を含め, 1993年1月中旬までに計960tの物資の輸送が完了した。昭和基地における夏期の建設作業は, 12月19日より2月9日までの間に管理棟内部設備等, 当初計画の工事をほぼ完了した。この間, 南極周回気球3機の打ち上げに成功するとともに, 重力絶対測定では600個以上の有効データが得られた。また, 大陸沿岸の露岩地域では正味43日間にわたり地質, 地形, 測地, 生物等の野外調査を, 氷床内陸では1カ月間の中継拠点往復デポ旅行を実施した。2月10日, 昭和基地最終便により第34次夏隊全員が「しらせ」へ帰着した。「しらせ」は2月13日流氷縁を離脱し, リュツォ・ホルム湾沖では4日間にわたり海底地形測量を実施し, その後19日から23日までアムンゼン・ケーシー湾にて露岩域の地学調査, 海洋生物観測, 3月2日から4日までプリッツ湾にて海洋生物観測を行った。生物観測では, トロール等により多種類の底生生物, 中層性魚類, プランクトン等が採集された。その後, 船上観測を行いつつ帰路につき, 3月21日にオーストラリア・シドニーに入港した。なお, 海洋停船観測は, 往路4測点, 復路11測点にて実施した。第34次夏隊は第33次越冬隊とともに, 28日シドニー発空路, 同日成田に帰着した。
著者
杉江 伸祐 成瀬 廉二
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.117-127, 2000-03-15
被引用文献数
2 4

積雪中の水の移動を知る上でもっとも重要なパラメータである不飽和透水係数を, しまり雪 (平均粒径0.5mm, 平均密度530kg/m<SUP>3</SUP>) および中ざらめ雪 (1.3mm, 620kg/m<SUP>3</SUP>) と大ざらめ雪 (1.7mm, 610kg/m<SUP>3</SUP>) の3種類の雪について実験室で測定した.実験は, 0℃の恒温槽内にて, 水の流下フラックスを一定にする「フラックス制御型定常法」によって行った.積雪中の水の負圧 (サクション : <I>h</I>) と流下フラックスから, 不飽和透水係数<I>K</I>とサクション<I>h</I>の関係<I>K</I> (<I>h</I>) を求めた.次に水分特性 (サクションと含水率の関係) の測定結果を用い, 不飽和透水係数と重量含水率θ<I><SUB>w</SUB></I>の関係<I>K</I> (θ<I><SUB>w</SUB></I>) に変換した.その結果, 不飽和透水係数Kは, 含水率の減少にともないべき乗の関係で減少することが分かった.これを<I>K</I>=<I>a</I>θ<SUP><I>m</I></SUP>で表わすと, 減少率を表わす<I>m</I>は雪質の違いによって大きな差があり, しまり雪 : 1.9, 中ざらめ雪 : 4.8, 大ざらめ雪 : 6.3となった.従来の研究では, べき乗数を一義的に3とすることがあるが, 雪質によって使い分けなくてはならない.また不飽和透水係数は, 高い含水率の時, ざらめ雪>しまり雪, 低い含水率の時, ざらめ雪<しまり雪の関係が得られた.このことは, ざらめ雪としまり雪で層を形成している時, 含水率によっては浸透を阻害する層構造があることが示唆された.
著者
白石 和行 成瀬 廉二 楠 宏
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.49-60, 1976-03

1969年12月,9箇の石質隕石がやまと山脈の南東端付近で発見された(Yamato (a)からYamato (I)と命名).引き続き12箇の石質隕石が1973年12月,第14次南極観測隊の旅行隊によってほぼ同地域で発見された.12箇中,大型のもの4箇(重量500〜900 g)はYamato (j), (k), (l), (m)と命名され,Yamato (l)はachondrite,他はchondriteである;残りの8箇(4〜40 g)はYamato (n)からYamato (u)と命名された.採集現場での産状写真を示すとともに,地形や氷状についても述べた.将来,さらに発見される可能性があり,やまと山脈南端の限られた裸氷域に隕石が集中している原因や機構の解明のため,将来室内研究と現場での研究の必要なことを述べた.
著者
成瀬 廉二 秋田谷 英次 西村 浩一 白岩 孝行 山口 悟 須澤 啓一 天見 正和 伊藤 陽一 根本 征樹
出版者
北海道大学低温科学研究所
雑誌
低温科学 物理篇 資料集 (ISSN:03853683)
巻号頁・発行日
no.55, pp.13-26, 1996
被引用文献数
1

1996年2月下旬に,北海道内広域の58地点にて積雪調査を行った。測定項目は,積雪深,積雪水量,層位・雪質・粒径,ラム硬度,雪温である。同年冬期は,札幌を中心とした日本海側では記録的な大雪であり,一方北海道東部は平年より少雪であった。全層平均密度と全層平均ラム硬度は,積雪量が多い北海道西部で高い値を,積雪量が少なく「しもざらめ雪」が顕著な東部で低い値を示した。
著者
安仁屋 政武 幸島 司郎 小林 俊一 成瀬 廉二 白岩 孝行 リベラ アンドレ カサッサ ジーノ 和泉 薫
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
1998

1998年は北パタゴニア氷原のソレール氷河とソレール河谷を対象とした研究が行われ、以下のような知見を得た。完新世の氷河変動の研究では、ソレール氷河とソレール河谷のモレイン分布調査から、ヤンガー・ドライアス(約10,500前)と2000BPの氷期が推定されるが、詳しくは年代測定結果が出るのを待っている。ソレール氷河では流動、表面プロファイル、歪みを調査し、さらに水文観測と気象観測を行い、氷河のダイナミクスとの関係を考察した。これにより、底面辷りが流動に大きな割合を占めていることが示された。さらに表面プロファイルの測定から、1985年以来、42m±5m表面高度が減少したことが判明した。年平均に直すと3.2m±5mである。1998年撮影の北パタゴニア氷原溢流氷河末端の空中写真から、1995年(前回調査)以後の氷河変動を抽出した。これによると、1つの氷河(サン・ラファエル氷河)を除き全てが後退していた。さらに1999年撮影の空中写真からは興味深いことが判明した。それは1990年以降唯一前進していたサン・ラファエル氷河が、1998年から1999年にかけて後退したことである。このことから、1990年以降の前進は、従来考えられていた1970年代の雨量増加というよりも、フィヨルドの地形と氷河ダイナミクスによる公算が大きくなった。1999年度の調査は南氷原のティンダール氷河の涵養域(標高1760m)でボーリングを行い、現地観察に加えて46mのアイス・コアの採取に成功した。詳しい化学分析はこれからである。ペリート・モレーノ氷河では写真測量によるカーピング活動の記録と氷河流動の推定、さらに湖面の津波観測によるカービング量の推定を行った。また、氷河周辺の湖の水深を測定した結果、深いところで80m程度であった。同じく、ウプサラ氷河が流入しているBrazo Upsalaの水深を測定したが、深いところは700m近くあり、氷河のカービングとダイナミクス、後退などを解析する上で重要なデータとなる。
著者
秋田谷 英次 白岩 孝行 成瀬 廉二
出版者
北海道大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

平成6、7の2年間で札幌市内の雪氷路面の調査を実施し、目視による新たな路面雪氷分類を作成した。これはスタッドレスタイヤと凍結防止剤の普及に伴って頻繁に発生する様になった路面状態に対応した分類である(つるつる路面に主眼)。路面状態は積雪量・気温の気象要素と交通量、及び道路の維持管理作業によって常に変化する。2冬期の観測結果から路面状況を定量化し気象要因と比較した。その結果、車の走行にとって問題となる「光る(すべる)路面」と「こぶ氷」の発生動態が解明された。この結果は、最悪な雪氷路面が発生する前に的確な維持管理作業を開始する指針となるものである。表層雪崩の原因である弱層の調査を本州の多雪山岳域まで広げた。放射冷却に起因する「表層しもざらめ雪」と「表面霜」からなる弱層は北海道以外でも表層雪崩の大きな原因となることが明らかとなった。雪崩災害を防ぐためには登山者・スキーヤへの啓蒙が重要である。普及活動として例えば、平成8年度全国山岳遭難対策協議会(文部省、岐阜県、警察庁等の主催)に招かれ講演した。平成7年は12月末から北海道では近年にない豪雪となり、やがて本州も豪雪に見舞われた。札幌圏ではこれまでの道路管理システムでは対応できず、あらゆる交通網は大混乱を引き起こした。大都市では、これまでのハード中心の対策には限界があり、新たな交通規制、きめ細かな情報公開、住民、ユーザーと行政との責任分担などソフト面での対応が不可欠な事が明らかとなった。10年以上にわたり豪雪がなかったため、住民、行政、マスコミとあらゆる機関の自然に対する危機意識が低下したこと、地方、国などの横の連携が不十分な事も災害要因となった。
著者
若濱 五郎 成瀬 廉二 庄子 仁 藤井 理行 中澤 高清 高橋 修平 前 晋爾
出版者
北海道大学
雑誌
総合研究(A)
巻号頁・発行日
1988

本研究は、南極クィ-ンモ-ドランド氷床、グリ-ンランド氷床、北極氷冠、およびアジア内陸地域の氷河等にて堀削し採取された氷コアの解析を行い、諸特性を相互に比較検討することを目的として進められた。特に、最終氷期以降の大気環境変動の過程ならびに氷床・氷河の変動におよぼす氷の動力学的特性を明らかにすることに重点をおいた。研究成果の概要を、以下の1〜4の大項目に分けて述べる。1,氷の物理的性質の解析:氷床氷中の氷板、気泡、クラスレ-ト水和物の生成過程、ならびに多結晶氷の変形機構や再結晶について新しい知見が得られるとともに、氷コアの構造解析の新手法が開発された。2,氷の含有化学物質の分析:氷床氷中の酸素同位体、トリチウム、二酸化炭素、メタン、固体微粒子、主要化学成分、火山灰等の分析結果から、最終氷期以降あるいは近年500年間の大気環境変動過程について多くの情報が集積された。特に、両極地の比較検討も行われた。3,雪の堆積環境に関する解析と数値実験:南極地域にて観測された気象・雪氷デ-タ等の解析、および数値シミュレ-ションを行うことにより、中・低緯度から極地氷床への物質・水蒸気の輸送過程ならびに雪の堆積・削はく現象と分布について研究された。4,氷河・氷床の流動と変動機構に関する解析と数値実験:南極東クィ-ンモ-ドランド氷床の平衡性、白瀬氷河の変動、山脈周辺の氷床の動力学的特性、深層氷の年令推定法などについて考察された。1990年9月、札幌において本総合研究の全体研究集会を開催し、各研究結果の総合的討論を行った。この成果は、総合報告書(B5版、312ペ-ジ)として1991年3月に出版された。同報告書では、将来の氷床コア研究の展望と諸課題も論じられている。