- 著者
-
シム チュン・キャット
- 出版者
- 日本教育社会学会
- 雑誌
- 教育社会学研究 (ISSN:03873145)
- 巻号頁・発行日
- vol.108, pp.109-122, 2021-07-07 (Released:2023-04-08)
- 参考文献数
- 11
本稿は,複線型教育を基盤とし国際学力調査で常に上位を占めてきたシンガポールから見た日本の教育のあり方について論じるものである。公的資料や先行研究だけでなく,メディアによる報道,シンガポール教育省のプレスリリースや教育相によるスピーチをもとに,日本の教育が同国でどのように語られているのかについて考察が行われた。 まず,経済停滞している日本を,シンガポール人,とりわけ学力トップ層の高校卒業生が留学先として選ばなくなった現状と日本の大学が優秀な留学生を惹きつけるうえで直面する課題が検討された。次に,教育相によるスピーチで言及された,シンガポールが日本の教育から見習うべき良い取り組みと逆に教訓として学ぶべき失敗例が取り上げられた。最後に,PISAの生徒質問紙調査の結果から,多くの日本の生徒がシンガポールの生徒ほど数学を勉強することの楽しさも必要性も見出せずにいるだけでなく,生徒と教師の関係もそれほど良好でないことが示された。しかも,シンガポールの場合とは異なり,日本では学力による差が大きいことも明らかとなった。それにもかかわらず,日本がそれでもPISAで実績を残してきたことから,日本の生徒には相当の努力が求められることが推測された。 以上を踏まえて本稿の結びでは,日本におけるスーパーグローバル大学の課題,学力格差に対する処方箋の欠如およびメリトクラシーの方程式に関する再考の必要性が指摘された。