著者
由井 義通 日野 正輝 シャルマ ヴィシュワ ラージ
出版者
地理科学学会
雑誌
地理科学 (ISSN:02864886)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.1-17, 2021

<p>1991年の経済自由化以降,インドの経済は急速な発展をとげ,メガ・リージョンの核となる大都市圏の郊外では,工業団地やオフィスビルディングの開発,および新中間層や富裕層向けの住宅開発と商業開発が進められている。本研究の目的は,グルグラムから外延的都市開発が進むマネサールを事例として,デリー大都市圏のアーバンフリンジにおける住宅開発の実態と課題を明らかにすることである。</p><p>研究対象のマネサールはインディラ・ガンジー国際空港からナショナルハイウェイ8号線で南へ 32 kmに位置し,デリーの郊外都市として急速に発展しているグルグラムの南に隣接し,行政上は村委員会が管理している村であるが,人口規模および社会経済的特性が都市の条件を備えているセンサス・タウンである。マネサールはグルグラムの「マスタープラン2021」においてグルグラムと一体化した都市計画区域となり,都市開発が進められている。</p><p>マネサールのセクター1の開発状況について,2016年2月および2017年2月に現地調査を行った。その結果,536区画中,入居中の戸建て住宅は269戸,自宅建物に借家を組み込んだ小規模な集合住宅が19棟,戸建て住宅区画に建設されたPGが63棟,グループハウジングは55区画中19区画が開発済みであった。また戸建て住宅区画のうち,空き地と空き家が多く,約30%は未利用の状態であった。空き地の土地所有者は,居住意思はなく,投機目的での土地取得といえる。</p><p>グループハウジングは,コーポラティブハウジングが多く,グルグラムのような大手不動産ディベロッパーによる開発はない。また,大部分のグループハウジングでは賃貸住宅が多かった。</p><p>このように,マネサールでは大量の空き地と空き家が発生していた。また,入居のある住宅についてみると,戸建て住宅とグループハウジングのいずれにおいても賃貸住宅として貸し出されている住宅が多い。これらはマネサールがアーバンフリンジにあり,地価や住宅価格が安いことやメトロの延伸計画などで将来的な発展を見込んだ投機的な住宅開発が行われたことによると思われる。さらに,単身者向けのPGが多いのは,食堂などの生活利便施設のないアーバンフリンジで工業団地が開発されたためといえる。</p><p>インドにおける都市開発の問題は,農村からの土地の収奪問題発生や,伝統的農村が計画的都市内に無秩序に分散しているような第三世界的な過剰都市化が課題となっている。</p>