著者
ダリン トーマス
出版者
北海道大学文学研究科
雑誌
研究論集 (ISSN:13470132)
巻号頁・発行日
vol.15, pp.229-252, 2016-01-15

本稿では,北海道諸方言の韻律的を明らかにするための一歩として北海道 の4つの方言(札幌・網走・小平・七飯)を対象に,それぞれの方言におけ る和語名詞のアクセントを記述し,指摘できるパターンを分析した。 その結果,話者が若いほど全国共通語と一致するアクセントを使う傾向が あきらかになった。つまり,北海道方言においてアクセントの共通語化が進 行中である。この傾向は2モーラ名詞のアクセントにおいて最も顕著である。 第II類語(冬,川,石など)では,本来のアクセント(平板型)が共通語と 一致する尾高型に置き換えられつつある。また,北海道方言のIV・V類語(味 噌,海,肩,秋など)では,2モーラ目の母音の性質によってアクセントが 変わる現象があるが,この特徴は40代以下の話者に観察されなかった。さら に,調査によって共通語化の程度が異なることも分かった。要するに,札幌 や網走に比べて,道北地方の小平町と道南地方の七飯町ではアクセントの共 通語化の進歩が遅れているようである。 3モーラ名詞のアクセントにおいて個人差が大きく,一貫した傾向は指摘 できなかったが,札幌・網走の方言の名詞の一部において話者の年齢と関わ るアクセント変化が観察された。ただし,ある特定の語彙において,若年層 の話者でも共通語と異なるアクセントを使う傾向があった。