著者
藤本 潔 小野 賢二 渡辺 信 谷口 真吾 リーパイ サイモン
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2017, 2017

1.はじめに<br><br> マングローブ林は、地球上の全森林面積の1%にも満たないが、潮間帯という特殊環境下に成立するため、他の森林生態系に比べ、地下部に大量の有機物を蓄積している。しかし、その主要な供給源である根の生産・分解プロセスは不明のままであった。そこで本研究では、主として細根の蓄積・分解速度を、樹種別、立地環境別に明らかにすることを目的とする。対象地域は、熱帯湿潤環境下のミクロネシア連邦ポンペイ島とマングローブ分布の北限に近い亜熱帯環境下の西表島とする。対象樹種は、アジア太平洋地域における主要樹種で、ポンペイ島はフタバナヒルギ(<i>Rhizophora<br>apiculata</i>)、ヤエヤマヒルギ(<i>Rhizophora stylosa</i>)、オヒルギ(<i>Bruguiera<br>gymnorrhiza</i>)、マヤプシキ(<i>Sonneratia alba</i>)、ホウガンヒルギ(<i>Xylocarpus<br>granatum</i>)、西表島はヤエヤマヒルギ、オヒルギとする。<br><br>2.研究方法<br><br> 各樹種に対し、地盤高(冠水頻度)の異なる海側と陸側の2地点に試験地を設置し、細根蓄積速度はイングロースコア法、分解速度はリターバッグ法で検討した。イングロースコアは径3cmのプラスティック製で、約2mmのメッシュ構造となっている。コアは各プロットに10本埋設し、1年目と2年目にそれぞれ5本ずつ回収した。コア内に蓄積された根は生根と死根に分け、それぞれ乾燥重量を定量した。コア長は基盤深度に制約され20~70cmと異なるが、ここでは深度50cmまで(50cm未満のコアは得られた深度まで)の値で議論する。リターバッグにはナイロン製の布を用い、径2㎜未満の対象樹種の生根を封入し、各プロットの10cm深と30cm深に、それぞれ3個以上埋設した。<br><br>3.結果 <br><br> 1) 細根蓄積速度<br><br> ポンペイ島では、現時点でフタバナヒルギとヤエヤマヒルギ陸側の2年目のデータが得られていないため、ここでは1年目のデータを用いて検討する。細根蓄積量(生根死根合計)は、海側ではいずれの樹種も40~50 t/ha程度であったが、陸側では、ヤエヤマヒルギ、マヤプシキ、およびオヒルギが25 t/ha前後と相対的に少なかった。樹種毎に海側と陸側で比較したところ、フタバナヒルギの死根と生根死根合計、マヤプシキの生根と生根死根合計、オヒルギの生根死根合計で海側の方が陸側より有意に多かった。樹種間で比較すると、海側の生根はマヤプシキが有意に多かった。陸側の死根は、ヤエヤマヒルギがオヒルギ、マヤプシキ、フタバナヒルギより多い傾向にあり、陸側の生根死根合計は、ヤエヤマヒルギとホウガンヒルギがオヒルギ、マヤプシキ、フタバナヒルギより多い傾向にあった。海側の死根は、マヤプシキがヤエヤマヒルギ、オヒルギ、ホウガンヒルギより有意に少なかった。<br><br> 西表島の1年目の細根蓄積量は、ヤエヤマヒルギが海側で6 t/ha、陸側で9 t/ha、オヒルギが海側で4 t/ha、陸側で6 t/haであった。海側と陸側で比較すると、1年目、2年目共、いずれの樹種も有意差はみられなかったが、樹種間では2年目の陸側生根でヤエヤマヒルギがオヒルギより有意に多かった。標高がほぼ等しいヤエヤマヒルギの陸側とオヒルギの海側では有意差はみられなかったが、ヤエヤマヒルギの海側とオヒルギの陸側では前者が有意に多かった。<br><br> ポンペイ島と西表島で比較すると、ポンペイ島の方がヤエヤマヒルギで約7倍、オヒルギで4~7倍多かった。ただし、地上部バイオマスは、西表島のヤエヤマヒルギ林が80 t/ha、オヒルギ林の海側が54 t/ha、陸側が34 t/haであるのに対し、ポンペイ島のヤエヤマヒルギ林は216 t/ha、オヒルギプロットの林分は499 t/haであった。すなわち、地上部バイオマスはポンペイ島の方がヤエヤマヒルギ林で約2.7倍、オヒルギ林で9.2~14.6倍多く、ヤエヤマヒルギは地上部の相違以上に地下部の相違が大きいのに対し、オヒルギは地上部の相違ほど地下部の相違は大きくなかった。<br><br>2)分解速度<br><br> ポンペイ島におけるリターバッグ設置1年後の残存率は、ヤエヤマヒルギの海側10cm深で7.7%と極端に低く、フタバナヒルギの陸側30cm深とオヒルギは60~85%と相対的に高かった。他の樹種はおおよそ40~50%程度であった。西表島はいずれも50~60%で有意差はみられなかった。