著者
藤原 勝紀 田畑 治 岡田 康伸 皆藤 章 一丸 藤太郎 下山 晴彦
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

こころの問題が複雑化・深刻化している現代において、臨床心理士をはじめとする専門家、心理臨床家には、高度な専門性が求められている。心理臨床家の養成の難しさは、内面的な心と心の使い方、あるいは全人格に関わる生き方について、いわゆる教育指導が可能かという本質的な課題を提起する点にある。直接の人間関係による臨床実践をつうじて生成する学問、学問を基盤に臨床実践を行う心理臨床家、という学問と臨床実践の相互不可分な専門性の中で、従来の知識伝授型の教育過程とは異なる「臨床実践指導」の在り方に焦点を当てることになった。そこで、臨床心理士の養成と資格取得後の教育研修、ならびに臨床実践指導者の養成に関する教育訓練、教育研修の仕組みや在り方と、その指導内容や方法について検討がなされ、大学院附属心理教育相談室など臨床実践指導機関の役割や位置づけ、大学院教育カリキュラムにおける臨床実践指導の位置と在り方を討議する中、新しい臨床実践指導のパラダイム(従来の「講義-演習-実習」から「実習-演習-講義」への変換)が示された。これは、高度専門職業人として不可欠な倫理教育も含んでおり、臨床実践に根ざしたボトムアップ型の重要性が認識されることになった。このような技術だけではない臨床実践技能の質をどう担保し高めるかという点が、心理臨床家の養成において焦点であり、かつ臨床心理士有資格者にとっては生涯学習的なテーマである。本研究を通して、臨床実践指導の本質が問い直され、その特徴として、指導を受ける側と指導者側との双方向的な視点の重要性も明らかにされた。なお、京都大学大学院教育学研究科では、平成16年度から「臨床実践指導者養成コース」という独立した博士課程が設置され、「臨床実践指導学講座」が新設される運びとなっている。
著者
澤田 英三 一丸 藤太郎
出版者
安田女子短期大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

本研究は、わが国の伝統的地域社会に存在していた青年期発達を支援する社会システムや民俗慣行の特徴と機能を、心理学的に吟味することを目的とした研究である。本年度は、次の観点からの研究を行った。研究1 「豊島と姫島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の比較研究」では、特に大分県姫島にかつて存在していた倶楽部や夜這いについての回想的な聞き取り調査を行うと同時に、現在も多くの住民が参加する盆踊りの観察を行った。その結果、(1)倶楽部での男女交際は、盆踊りや祭などの準備として集まった際の地区ごとの集団的な交際であるのに対して、夜這いでの交際は、地区の枠を越えて気の合う仲間と行う能動的な男女交際であった。(2)女性は、夜這いが自分の気に入った男性との交際の場となるだけでなく、気に入らない男性に対する接し方が自分に対する世間の評価につながることを心得て接していた。(3)自分らしさを表現する盆踊りでは、男型・女型の踊りをマスターした上で、いかに個性的に踊るかが目標になっていた。研究2 「答志島における青年宿と青年期慣行の特徴と発達支援機能の実際」では、三重県答志島に現存する青年宿(寝屋)やかつて存在していた娘遊びについての聞き取り調査と、御木曳祭における青年と他世代との交流の観察を行った。その結果、(1)相互浸透的な青年宿の部屋の物理的構造は、家族と青年の相互作用を高めるのに一役かっているが、青年は守るべきプライバシーの意識をもっている。(2)娘遊びは、男子青年がまず女性の親と会話をした後に女性の部屋に通される点で姫島の夜這いとは異なり、それを通して地域での年長者とかかわる術を身につけていく機能をもっていた。(3)約100日間の厳しい練習を経て行われた20年ぶりの御木曳祭では、主役となった威勢のよい青年が、地域住民に対して期待のもてる将来を提示する機能があった。