- 著者
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一木 絵理
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 特別研究員奨励費
- 巻号頁・発行日
- 2009
本研究は、詳細な環境史を時間軸に、日本列島における縄文海進像を再構築し、海進および海退による海域生態系の変化と人間活動を明らかにすることが目的である。海進・海退の地域比較を明らかにした初年度に加え、当該年度は対象地域のさらなる調査と新たな地域を加えて、海域生態系の復原および編年を明らかにすることに努めた。対象地域は(1)古本荘湾と菖蒲崎貝塚(秋田県)、(2)古青谷湾と青谷上寺地遺跡(鳥取県)、(3)上北平野と長七谷地貝塚(青森県)、(4)常呂平野とトコロ朝日貝塚(北海道)である。(1)では、菖蒲崎貝塚周辺で重要なボーリング・コアが得られ、沖積層の層序を解明することができ、本荘平野の変遷史の中で貝塚を位置づけることができた。特に縄文時代早期後半の段階で内湾奥部まで海が侵入して古本荘湾が形成され、貝塚は水深の深い海辺に形成されたことがわかった。(2)では、古青谷湾の海進および海退、平野の形成を明らかにし、さらに縄文時代後半期の浅谷形成と弥生の小海退も新たに認めることが出来た。環境史の中に遺跡を位置づけ、その特異性が明らかになった。(3)では、長七谷地貝塚周辺でボーリング・コアの採取を行い、火山灰編年と層序を対応させることができ、災害の影響と遺跡群の変遷を捉えることができた。(4)では、常呂平野とサロマ湖でのボーリング・コアの採取によって、海退の現象を追うとともに比較研究が可能となった。本研究によって、日本列島における縄文海進および海退による海域生態系の復原を行い、地域ごとの実態を年代測定を加え詳細に対応させていくことで、地域間の共通点と相違点が明らかになった。海進・海退による大きな変化期が人間活動とどのように結びつくかということは、各地域を成り立たせている基盤-地形地質や河川形態、内湾形態といった要素と切り離せず、今後も各地域においてその様相を把握し明らかにしていきたい。