著者
三宅 昭良
出版者
東京都立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

今回の研究によって、エズラ・パウンドのファシズム傾斜の全容、ウィリアム・ダッドリー・ペリーの心霊主義とファシズムの関係、ペリーのパウンドにあたえた影響は解明できた。パウンドにおいては<アメリカ>という問題がきわめて重要である。理想の<アメリカ>が現実の歴史と政治から失われてゆく思いから、ファシズムと反ユダヤ主義に傾倒してゆくのであった。その課程で、ペリーの「南北戦争とリンカーンの死の秘密」という論文を読んだことが、パウンドにとっては決定的であった。南北戦争というアメリカ史上最大の国家的危機がユダヤ人による陰謀であったという暴論に衝撃を受け、「ユダヤ人問題」の研究に彼ははいるのである。その意味でペリーの反ユダヤ主義が詩人にあたえた影響は重大である。ペリーのファシズムは反ユダヤ主義思想、銀シャツ党の活動、心霊主義、経済改革論の4つの柱から成る。今回の研究では銀シャツ党の活動の概要、心霊主義の核心、そして心霊主義と反ユダヤ主義、さらに経済改革論とそれらの関係の解明を試みた。彼の人種理論はグラントなどの黄禍論的人種主義と同種のものであるが、それに宇宙論的妄想をかぶせたところにその特徴がある。すなわち、地上にさまざまな人種が存在するのは、宇宙から人類の祖先が移住してきたところに原因があるとする説である。そしてユダヤ人を含む黄色人種は「優秀な支配人種たる白人種を脅かす危険な存在」という、例の黄禍論に接続するのである。また、ペリーの経済改革論は実行不可能な空想的ユートピアにすぎず、オカルト的人種論と同じメンタリティの所産であることがよく分かる内容である。そしてこの建設的価値が彼の反ユダヤ主義を支えるもうひとつの思想的軸なのである。