著者
小池 健一 上條 岳彦 三木 純 坂下 一夫
出版者
信州大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1997

1986年に起きたチェルノブイリ原発事故は隣接するベラルーシ共和国に高度の放射能汚染をもたらした。放射能汚染地域に住む小児は、今もってこれらの放射性核種による被曝を受け続けている。原爆における放射性障害は一度に全身被曝を受けたことに起因するのに対して、チェルノブイリ原発事故では低線量の放射能被曝が事故後10年経た現在も持続している点で大きく異なっている。ゴメリ州立病院に入院した小児白血病患者と、同期間にビテフスク州立病院に入院した小児白血病患者における病型を比較した。ゴメリでは、慢性骨髄性白血病(CML)症例が94例中5例を占めた。一方、ビテフスクでは66名の白血病患者の中でCML例は1例もみられず、CMLがゴメリ州でより多く発症した傾向がうかがえた。小児におけるCML発症はきわめてまれであるにもかかわらず、ゴメリ州立病院に入院した白血病患者の5%がCMLであったことは、放射能汚染との関連が推測される。しかし、最終的な結論を得るには、より多くの患者の集積が必要である。急性リンパ性白血病の初診時年齢や検査所見などを比較したところ,ゴメリ州において明らかに幼若年齢での発症が多くみられた。また、LDHが高値を示す症例の比率が高かった。末梢白血球数、Hb値、血小板数などは差が認められなかった。ゴメリ州立病院に入院したALL患児の臨床的特徴として、2歳以下の幼若児の比率が高いこと、LDHが500IU/L以上を示す患者の頻度が高いことが明かとなった。最近、小児期、特に2歳くらいまでの白血病発症は胎児期に始まることが報告されている。ゴメリ州での放射能被曝は胎児期から始まる低線量の長期間にわたる体内被曝様式をとっていることから、幼若発症例が多い要因として、出生前からの母体内被曝が重要な因子となっている可能性が考えられる。