著者
三浦 麻美
出版者
中央大学人文科学研究所
雑誌
人文研紀要 (ISSN:02873877)
巻号頁・発行日
vol.89, pp.359-389, 2018-09-30

本稿は中世ザクセン,マンスフェルト伯領における修道院の史料を整理・分析し,伯と修道院の関係性に関する考察を通じ,13~16世紀の女子修道院と貴族家門の霊性を明らかにする。12世紀にドイツの貴族家門が所領と家修道院を中心に発展する中,遅れて13世紀に修道院を創設した伯はどのようにして家門の歴史を形成したのだろうか。『マンスフェルト伯領修道院証書集』の分析で判明した10修道院のうち,伯が創設したシトー会女子修道院であるヘルフタは特に頻繁な所領や貨幣の寄進を受けた。さらに,同修道院のカルテュレールを再現してヘルフタの歴史認識を明らかにし,修道女たちが寄進の対価として一族の故人のために捧げる祈祷をアイデンティティの中心に置いていたことを指摘する。この関係は伯家もしくはヘルフタが危機に陥るたびに更新され,修道院改革とヘルフタのベネディクト会への転属を超えて継続し,死者を中心とした霊性の1つのあり方を示している。