著者
宮島 宏 松原 聰 宮脇 律郎 三石 喬
出版者
日本鉱物科学会
雑誌
日本鉱物学会年会講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.125, 2003

ミャンマー産ひすい輝石岩から、ストロナルシ石成分を最大48 mol%含むSrに富むバナルシ石(以下、Sr-Bnl)が発見された。バナルシ石はNa<SUB>2</SUB> Ba Al<SUB>4</SUB> Si<SUB>4</SUB> O<SUB>16</SUB>なる組成を持つ長石族鉱物で、イギリス・WalesのBenallt鉱山が原産地である(Smith et al., 1944)。原産地以外には、スウェーデン (Welin, 1968)、東京都白丸鉱山(加藤ら, 1987)、ミャンマー(Harlow and Olds, 1987)、ロシア(Koneva, 1996)、南アフリカから報告がある。本報告のSr-Bnlは淡緑色半透明緻密堅硬のひすい輝石岩中に、無色透明ガラス光沢、最大1.5cm×0.7cmの不規則形で偏在していた。Benalltや白丸のバナルシ石と同様、短波長紫外線で赤色蛍光を発する。青紫色異常干渉色と不規則な消光を示し、明瞭な劈開はない。ひすい輝石岩の空隙を充填したような産状を示すが、(1) Sr-Bnlと接するひすい輝石は半自形結晶で破断されていないこと、(2) Sr-Bnlに包有される自形から半自形のひすい輝石があること、(3) Sr-Bnlの外形が丸みを帯びた不規則形であることから、Sr-Bnlはひすい輝石岩が脆性破壊を被って生じた割れ目に後から晶出したものではなく、ひすい輝石岩生成の晩期にひすい輝石とともに熱水条件下で生じたものと考えられる。<br> EDSによる代表的分析値は、SiO<SUB>2</SUB> 37.79, Al<SUB>2</SUB>O<SUB>3</SUB>31.81, BaO 14.66, SrO 6.52, Na<SUB>2</SUB>O 9.34, Total 100.12 wt%で、これからNa<SUB>1.92</SUB> (Ba<SUB>0.61</SUB> Sr<SUB>0.41</SUB>) <SUB>Σ1.02</SUB> Al<SUB>3.98</SUB> Si<SUB>4.01</SUB> O<SUB>16</SUB>という実験式(O=16)を得る。BSE-imageでは、Ba/(Ba+Sr)=0.67-0.52の組成変動に対応する若干の濃淡が認められるが、大半はBa/(Ba+Sr)=0.6前後の組成である。バナルシ石のSr置換体がストロナルシ石(stronalsite Na<SUB>2</SUB> Sr Al<SUB>4</SUB> Si<SUB>4</SUB> O<SUB>16</SUB>)で、Hori et al., (1987)が高知市蓮台の変塩基性凝灰岩中の脈から報告した。他に岡山県大佐町のひすい輝石岩(Kobayashi et al., 1987)、ロシアZhidoisky massifの輝岩中の脈(Koneva, 1996)、糸魚川・青海地域と兵庫県大屋町のひすい輝石岩(宮島ら, 1998)から産出報告がある。<br> Harlow and Olds (1987)のミャンマー産バナルシ石は端成分に近い組成で、母岩はコスモクロア輝石、クロム鉄鉱、ニーベ閃石、エッケルマン閃石などを含む特異な岩石でひすい輝石岩ではない。本報告のようにバナルシ石とストロナルシ石の中間的な組成ものはKoneva (1996)による報告が唯一である。<br> 蓮華帯のひすい輝石岩からは、その生成晩期に熱水条件下で生じたSrやBaを主成分とする鉱物が報告されている(例えば、Miyajima et al., 1998による糸魚川石)。しかし、ミャンマー産ひすい輝石岩からは未発見だった。今回、Sr-Bnlが発見されたことで、ひすい輝石岩にSrやBaを主成分とする鉱物が出現することが蓮華帯のひすい輝石岩に限られた特異な現象ではないことが明らかになった。日本やミャンマーのひすい輝石岩にSrやBa鉱物が共通して産することは、その生成機構と密接に関係したことであろう。