著者
三羽 邦久
出版者
南江堂
雑誌
臨床雑誌内科 (ISSN:00221961)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.345-352, 2017-02-01

労作後の極度の消耗,遷延する疲労感を特徴とし,多彩な症状を呈する慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)の原因として,2011年,筋痛性脳脊髄炎(myalgic encephalomyelitis:ME)による中枢神経系の機能調節障害が国際委員会(International Consensus Panel)より提唱された.本症の成因に循環器的異常が密接に関連することが,近年明らかにされた.本症患者にはsmall heart例が多い.すなわち,やせ型の若年女性に多く,低血圧や起立性低血圧をしばしば認め,胸部X線像上,心胸郭比は小さい.心エコー検査でも左室拡張末期径が小さく,1回拍出量,心拍出量は低値となる.左室収縮性の指標の低下は認めない.強度の疲労,めまい,集中力低下,身震い,悪心などの症状により立位維持困難を訴える起立不耐症(orthostatic intolerance:OI)は,CFS患者の立位時症状としてもよくみられ,QOL,労働能力を低下させ,生活機能障害を規定する最重要因子となっている.公表された診断基準には,心血管系症状としてOIが含まれた.OIの病態生理は,立位時の脳血流不足であり,交感神経系の高度緊張も症状に関わる.CFS患者では循環血液量の減少から前負荷の低下による低心拍出量状態を認めるにもかかわらず,血漿レニン活性の上昇はなく,血漿アルドステロン系および抗利尿ホルモン(ADH)濃度は健常人より低値である.OIの病態には,レニン-アルドステロン系およびADH系の活性化不全も関係しているようである.前負荷の低下による低心拍出量状態を十分認識することが,本症患者の診療の重要な手助けになるとともに,本症研究の進展のbreakthroughになるであろう.
著者
三羽 邦久
出版者
ミワ内科クリニック
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2016

慢性疲労症候群の原因として筋痛性脳脊髄炎に伴う中枢神経系の機能調節障害が2011年に国際委員会より提唱された。診断基準には、心血管系症状として起立不耐症が含まれた。患者の大半は低血圧でSmall heart例が多い。心胸郭比は小さく、心エコー検査でも、左室拡張末期径が小さく、1回拍出量、心拍出量は低値である。左室収縮性の指標の低下はない。低心拍出量症候群として多くの病態が理解できる。強度の疲労、めまい、ふらつき、動悸、悪心などの症状により立位維持困難を訴える起立不耐症は、本症患者の生活機能障害を規定する最重要因子となっている。起立不耐症の病態生理は、立位時の脳血流不足であり、交感神経系の高度緊張も関わる。体位性起立頻拍、起立性低血圧や神経調節性低血圧をしばしば認める。前負荷の低下による低心拍出量状態にも拘らず、血漿renin活性の上昇はなく、血漿aldosteroneおよび抗利尿ホルモン(ADH)濃度は、患者で健常人より低値であり、Renin-Aldosterone系およびADH系の活性化不全があることが判明した。抗利尿ホルモン製剤、デスモプレシンの経口投与は、低尿浸透圧例において、起立不耐症状を緩和し、日常生活活動度を向上させるのに有効であった。
著者
三羽 邦久 神原 啓文 河合 忠一
出版者
公益財団法人 日本心臓財団
雑誌
心臓 (ISSN:05864488)
巻号頁・発行日
vol.15, no.8, pp.928-932, 1983

症例は53歳,男,夜間安静時または早朝ランニング時の胸痛発作を主訴とする.入院後,胸痛発作は起こらなくなっていたが,冠動脈造影時のエルゴノビン試験で,右冠動脈近位部の冠攣縮が証明され,発作時,II,III,aV<SUB>F</SUB>に加え,I誘導でもSTが上昇し,Mobitz II型の房室ブロックとなった.V<SUB>2</SUB>,aV<SUB>R</SUB>,aV<SUB>L</SUB>ではST低下を認めた.このとき,左室圧は55/end25と低下し,ノルエピネフリンの少量動注により回復した.前日のエルゴノビン誘発発作時には,II,III,aV<SUB>F</SUB>でSTが上昇したが,IではST低下を認め,血圧の低下も少なかった.右冠動脈攣縮異型狭心症でI誘導でもST上昇の見られる例は報告されておらず,まれな症例である.右冠動脈攣縮による血流途絶に加え,左回旋枝末梢部の冠攣縮あるいは血圧の低下などにより,心尖部に近い下側壁部にも貫壁性虚血が拡大し,I誘導にST上昇をきたした可能性が考えられる.