著者
西村 勝治
出版者
南江堂
雑誌
臨床雑誌内科 (ISSN:00221961)
巻号頁・発行日
vol.112, no.1, pp.91-95, 2013-07-01

ステロイドは精神症状の発症リスクがもっとも高い薬剤の一つであり,自殺のリスクは7倍に上昇する.気分障害(躁病,うつ病,混合性の各エピソード),精神病性障害,せん妄,軽度認知障害など多彩な臨床症状を呈する.急速・高用量投与時には躁病エピソードが,長期投与ではうつ病エピソードが生じることが多い.ステロイド誘発性精神障害(CIPD)の発症は用量依存的であるため,治療の原則はステロイドの減量・中止である.対症療法として,躁病エピソードには抗精神病薬や気分安定薬が適応となる.うつ病エピソードには慎重に選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)を用い,三環系抗うつ薬を使用しない.せん妄,精神病性障害には抗精神病薬を用いる.精神科医との連携が欠かせない.
著者
皿谷 健 柳沢 如樹 高倉 裕樹 嶋崎 鉄兵
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.125-133, 2021-01-01

皿谷 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の流行により,病床数や医師の数についてクローズアップされ,「PCR検査」「クラスター」「潜伏期」などの用語が広く知られて一般の人たちの間でも飛び交うようになりました.また,COVID-19関連の論文がリアルタイムに急増して,世界中で情報共有されていることを感じました.このように大きな影響を及ぼしているCOVID-19について,異なるご施設でCOVID-19診療に対応されている先生方にお集まりいただき,お話を聞かせていただきたいと思います.
著者
三羽 邦久
出版者
南江堂
雑誌
臨床雑誌内科 (ISSN:00221961)
巻号頁・発行日
vol.119, no.2, pp.345-352, 2017-02-01

労作後の極度の消耗,遷延する疲労感を特徴とし,多彩な症状を呈する慢性疲労症候群(chronic fatigue syndrome:CFS)の原因として,2011年,筋痛性脳脊髄炎(myalgic encephalomyelitis:ME)による中枢神経系の機能調節障害が国際委員会(International Consensus Panel)より提唱された.本症の成因に循環器的異常が密接に関連することが,近年明らかにされた.本症患者にはsmall heart例が多い.すなわち,やせ型の若年女性に多く,低血圧や起立性低血圧をしばしば認め,胸部X線像上,心胸郭比は小さい.心エコー検査でも左室拡張末期径が小さく,1回拍出量,心拍出量は低値となる.左室収縮性の指標の低下は認めない.強度の疲労,めまい,集中力低下,身震い,悪心などの症状により立位維持困難を訴える起立不耐症(orthostatic intolerance:OI)は,CFS患者の立位時症状としてもよくみられ,QOL,労働能力を低下させ,生活機能障害を規定する最重要因子となっている.公表された診断基準には,心血管系症状としてOIが含まれた.OIの病態生理は,立位時の脳血流不足であり,交感神経系の高度緊張も症状に関わる.CFS患者では循環血液量の減少から前負荷の低下による低心拍出量状態を認めるにもかかわらず,血漿レニン活性の上昇はなく,血漿アルドステロン系および抗利尿ホルモン(ADH)濃度は健常人より低値である.OIの病態には,レニン-アルドステロン系およびADH系の活性化不全も関係しているようである.前負荷の低下による低心拍出量状態を十分認識することが,本症患者の診療の重要な手助けになるとともに,本症研究の進展のbreakthroughになるであろう.
著者
出澤 真理
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1311-1314, 2019-06-01

Summary▪Muse細胞は腫瘍性をもたない生体内多能性修復幹細胞であり,骨髄,末梢血,各臓器の結合組織に分布し,組織恒常性に関わっている.▪点滴投与で傷害部位に集積するので,外科的手術による投与は不要である.▪傷害組織に集積すると,同時多発的に組織を構成する複数の細胞種に分化することで修復する.「場の論理」に応じて分化するので,投与前の分化誘導を必要としない.▪他家Muse細胞の利用においてヒト白血球抗原(HLA)適合や長期間にわたる免疫抑制薬投与を必要としない.脳梗塞,心筋梗塞,表皮水疱症で「他家Muse細胞の点滴による治験」が進められている.
著者
寺柿 政和 宮本 雅史 槇野 亮次郎 立石 悠 井上 圭右
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.155-159, 2016-07-01

症例は83歳女性で、以前から夜間に下腿の冷える感じやこむら返りを自覚した。夜に健康補助食品の生姜湯(黒生姜湯)を飲んだところ、翌朝から動悸を感じるようになった。血液検査では中性脂肪、随時血糖、HbA1c、尿素窒素、Cr、尿酸BNPの上昇がみられた。12誘導心電図では頻脈性心房細動を示した。心拍コントロール目的でベラパミルを内服した。動悸症状は軽減するも持続し、心電図では心房細動が続いており、心拍数は毎分約90に減少していた。生姜湯は継続して服用し、下腿の冷感やこむら返りは改善していた。しかし、動悸が持続していたため、みずから生姜湯の服用をやめたところ、翌朝起床時には動悸は消失していた。その3日後、心電図では洞調律に復していた。負荷心電図を行ったが、負荷不十分で判定は困難であった。その後は動悸の再発もなく、洞調律を維持している。
著者
田中 良明
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.47-51, 2021-01-01

Summary▪COVID-19ではさまざまな肺外症状を呈することが報告されている.▪ウイルスが標的の細胞を直接傷害して生じる可能性が高いものから,宿主免疫の影響,さらには血管内皮細胞傷害の結果生じる臓器障害など複数の機序が想定されている.▪肺外症状としては,COVID-19の症状で比較的特異度が高いとされている味覚・嗅覚障害,凍瘡様の皮疹や斑状丘疹に代表される皮膚症状,下痢などの消化器症状,一般的なウイルス感染でみられる頭痛・めまいから意識障害・脳卒中までみられる精神神経症状,心筋障害などの心血管障害,過剰な自然免疫の賦活化によるとされるmulti-system inflammatory syndrome in childrenなどがある.
著者
浜中 聡子 上條 吉人
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.856-859, 2006-05-01

ヒステリー性(神経)症は,解離性(転換性)障害(ICD-10)に相当する.解離性障害では症状の原因になる身体的障害がないこと,ストレス負荷となる心理的要因が存在する,などの条件が診断上必要である.意識障害との鑑別が問題となる「ヒステリー」は,その多くが解離性昏迷と解離性痙攣である.解離性昏迷はアピール性が高く,被暗示性が高く,弛緩性昏迷の形をとることが多い.意識障害を伴っていても軽度で,昏睡状態との鑑別が重要である.解離性痙攣は,一見てんかん発作に類似するが,いくつかの特徴で鑑別可能である.発作症状は本人の現実逃避手段だったり,疾病利得と絡んでいたり,通常の不安発作よりも難治である
著者
竹迫 直樹
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.941-944, 2017-10-01

過粘稠症候群はまれな病態ではあるが,診断が重要であり血漿交換により速やかに症状が改善する.免疫グロブリンの異常を伴う疾患においてはこのまれな病態も潜んでいるかもしれず,眼底所見・神経学的所見などにより早期に治療に入ることが重要である.
著者
永田 哲也
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.1279-1283, 2019-06-01

Summary▪2016年に脊髄性筋萎縮症(SMA)に対する核酸医薬であるnusinersen sodium(Spinraza)が,本疾患に対する治療薬として初めて米国食品医薬品局(FDA)に承認された.その後,本邦や欧州においても承認され,2018年には世界40ヵ国の6,600人の患者に使用されている.▪2016年にはDuchenne型筋ジストロフィー1)の迅速承認や,2018年にはトランスサイレチン型家族性アミロイドポリニューロパチーに対する核酸医薬品2種類が承認されている.▪このように,神経・筋変性疾患の治療法として核酸医薬は非常に注目を浴びている.▪本稿では核酸医薬品の種類,SMAに対するnusinersen sodiumの作用機序および臨床試験の結果を中心に概説する.
著者
阿部 和夫
出版者
南江堂
巻号頁・発行日
pp.730-732, 2010-04-01

30歳女性。患者は閃輝暗点と失語性言語障害後に頭痛が出現し受診となった。これまで10歳代より数回の発話困難が出現したが、頭痛や片麻痺などの神経症状は認めなかった。今回、受診時、神経学的所見や頭部MRI、MRAでは異常所見は認められず、失語性言語障害が「頭痛のない片頭痛」に伴う前兆であったと診断された。