著者
三輪 清子
出版者
一般社団法人 日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.56, no.4, pp.1-13, 2016-02-29 (Released:2018-07-20)
被引用文献数
2

日本では,社会的養護を受ける子どもたちはその約9割が施設に入所し,約1割が家庭養護である里親に委託される,なぜ日本では里親委託が伸展しないのか.本稿では,この問題関心のもとに,戦後から現在までの里親制度に関する先行研究を概観し,その妥当性を検討する.里親委託の伸展を阻害するものと指摘される要因に関する仮説は,ほぼすべてが「里親登録者の不足」,もしくは「里親の養育対象となる子どもの限定化・少数化」を経由して里親委託が停滞することを指摘している.前者は,実証的なデータによって支持されるとは言いがたいが,後者に含まれるいくつかの下位仮説はデータから支持されていた.結局,児童福祉諸機関が里親に十分な支援や対応をとることが難しかったことが里親委託の停滞を生み出した最大の要因であると考えられた.
著者
三輪 清子
出版者
福祉社会学会
雑誌
福祉社会学研究 (ISSN:13493337)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.31-50, 2020-05-31 (Released:2021-06-23)
参考文献数
16

社会的養護を受ける子どもたちの措置先の一つである里親家庭は,子どもたちの一時的な養育を行う.里親家庭に委託された子どもは,実家庭への復帰,あるいはその見込みがない場合は,18 歳での自立を目指すことになる.里親 家庭の養育期間は,子どもの実親の状況と児童相談所の決定に依る.児童相談所の決定によって,里親家庭から施設あるいは実親の家庭に復帰することを措置変更というが,本稿では,インタビュー調査によって得られた,ある措置変 更事例を検討する. 対象にするのは,里親子関係が良好である中で,実親との交流のために,突然,子どもが児童養護施設に措置変更された事例である.本稿の目的は,この同一の措置変更事例をめぐる,児童相談所職員,里親支援機関職員,養育里親の三者の視点を捉えることにある.そのうえで,児童相談所から措置以外の里親業務全般を受託している民間里親支援機関の介入が里親に与える影響を考察する.併せて,措置変更の際に生じた児童相談所と里親の立場の違いに着目する.
著者
三輪 清子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.45-56, 2012-08-31

わが国では,低迷を続けてきた里親委託が近年徐々に増加し始めている.なぜ里親委託に変化が生じたのか.本稿では,この変化を児童虐待の増加の直接的な効果,間接的な効果(児童福祉司の増員が図られ,児童福祉司の役割過重が軽減された効果)と考える2つの仮説を設定し,2000〜2009年の都道府県政令指定都市を単位としたパネルデータを用いて検証を行う.分析の結果,2つの仮説が支持された.特に児童福祉司増員の効果は,児童虐待の直接的な増加より大きな効果をもつことが示された.ただし,そのすべての効果が役割過重の軽減化によって説明されたわけではなかった.児童福祉司の増員は,増加する児童虐待への対応を図ったものであるが,これによって児童福祉司1人当たりの相談対応件数の減少のみならず里親担当児童福祉司の配置などが実現し,それがその後の里親委託の増加という意図せざる効果をもたらした可能性がある.
著者
三輪 清子
出版者
一般社団法人日本社会福祉学会
雑誌
社会福祉学 (ISSN:09110232)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.43-53, 2011-08-31

日本で社会的養護を受ける子どもは,その9割が施設に委託され,里親に委託される者は1割にすぎない.この傾向は戦後から現在に至るまでほぼ一貫して示されている.なぜ里親委託はこれほどまでに低調なのだろうか.本稿の目的は,里親委託と施設委託の関係の推移をマクロデータを用いて計量的に検討し,この問題について考察することにある.まず時系列データから里親委託と施設委託の長期的動態を確認後,先行研究による「施設委託が優先された結果として,里親委託は伸展しなかった」という仮説の検証を試みる.時系列回帰分析の結果,施設の定員充足率は里親委託率に有意な負の効果を有しており,仮説を支持する結果が得られた.同時に,残差分析の結果から,1994〜2000年ごろの時期は他の時期以上に里親委託が抑止された時期であり,逆に2003年前後の時期は予測以上に里親委託が伸展した特殊な時期であることが示された.