著者
杉万 俊夫 米谷 淳 佐古 秀一 三隅 二不二
出版者
大阪大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1987

災害時の避難誘導方法として, 指差誘導法, 吸着誘導法という2つの対照的な誘導法をとりあげ, それらの誘導法によって引き起こされる群集全体の行動パターンを解析した. 指差誘導法とは, 誘導者が, 大きな声と動作で避難方向を指示して誘導する方法で, 従来, 避難訓練の場で最も広く用いられてきた代表的誘導法である. 一方, 吸着誘導法とは, 各誘導者が, 自分のすぐ近辺にいる1名ないし2名の少数の避難者に対し, 自分についてくるよう働きかけ, それら少数の避難者を実際に引きつれて避難するという方法である. したがって, 吸着誘導法においては, 誘導者が出口の方向を具体的に指示したり, 多数の避難者に対して大声で働きかけるようなことはしない. 第1に, 現場実験により, 吸着誘導法の方が, より迅速な避難誘導を達成できる場合があることが見いだされた. しかし, いかなる場合にも, 吸着誘導法が有効であるわけではない. 特に, 誘導者と避難者の人数比を操作した実験を行なったところ, 誘導者対避難者の人数比が比較的小さいときには, 吸着誘導法がきわめて有効であるが, 人数比が大きくなりすぎると, 吸着誘導法では十分な避難誘導を実現できなくなり, むしろ, 指差誘導法の方が有効であった. 第2に, 2つの誘導法を比べると, 誘導によって生起する群集全体の行動パターンに著しい違いが見いだされた. すなわち, 吸着誘導法が成功する場合には, まず, 誘導者, および, その直接的働きかけを受けた1名ないし2名の避難者から成る即時的小集団が形成され, その即時的小集団が「雪だるま式」に周辺の避難者を巻き込むことによって, 出口に向かう一本の群集流が形成された. 一方, 指差誘導法においては, 吸着誘導法の即時的小集団に相当するような特定の核が形成されることなく, 個々の避難者が, ばらばらのまま, 均質的に出口方向に移動した.
著者
三隅 二不二 ハフシ モハメッド 米谷 淳 橋口 捷久
出版者
奈良大学
雑誌
重点領域研究
巻号頁・発行日
1990

災害時、もしくは災害警戒期における人々の対応や態度を社会的なネットワ-クの観点から分析することが本研究の課題である。昭和64年には、スモ-ルワ-ルド・メソッドというネットワ-ク調査手法で焼津市を予備的に実験調査することによって、市役所・消防署などの防災機関と一般市民との間に潜在するネットワ-クを実験調査した。その結果、防災関係者と一般市民との間には、平均2〜3ステップ程度の連鎖のリンクでもって双方を連結させてやることが可能であろうことや、防災→市民ル-トよりも、市民→防災ル-トの方が連鎖が完成しやすことなどを明らかにした。平成1年度には、伊東市で生じた海底噴火に対する住民の災害時の行動や態度と日常のネットワ-クについてヒアリング・郵送調査をもって検討した結果、ネットワ-クの密な地区と疎な地区とでは、防災訓練への参加度や防災意識の高低などが、密な地区のほうが疎な地区よりも高い傾向があることが見いだされた。本年度は、再び伊東市の自主防災組織のリ-ダ-や市役所・消防などの防災関係機関、特にガス・電気・電話等のライフライン組織の責任者などに、おもにアンケ-トの結果を評価してもらうヒアリングを実施するともに、様々な機関が公式・非公式に、海底噴火当時の対応を記録した資料などを収集・分析した。その結果、災害時情報を、時期別・地区別・ネットワ-クの質別(近隣・親類・役所関係者・町内会関係者・自分の仕事関係者など7項目)分析した結果、地域防災上の相談のような部分的・短期型の情報の場合は、近隣・仕事関係ネットワ-クが利用される割合が高いのに対して、観光が伊東市に及ぼす影響といった全体的・長期的情報の場合は、親類関係ネットワ-クが利用されていた。また、災害時に流れた様々な噂を分析したところ、噂の内容には、「〜が地割れしている・〜の人々が避難した」といった地域密着情報の場合は、近隣ネットワ-クが、「富士山が噴火する・津波がくる」といったマスコミ報道の反復的な情報の場合は、親類・近隣を中心として不特定なル-トが利用され、「魚が異常な行動や大漁だった」という特殊な情報な場合は、魚業関係者のル-トが利用されるという傾向などがあった。