著者
上り口 晃成 青木 誠喜 森田 真功 田畑 勝彦 畦崎 泰男 前田 照太 井上 宏
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.248-254, 2002-12-25
被引用文献数
10

我々は唾液を経時的に採取しつつ,歯肉浸潤麻酔を行う試行と行わない試行を設定し,唾液中ストレスホルモンであるコルチゾールおよびクロモグラニンAの濃度変化を分析することで,疼痛刺激が唾液中ストレスホルモン濃度に与える影響を検討した.被検者として,健康な健常有歯顎者8名を用いた.実験は3日間行い,1日目は実験説明日とし,2日目と3日目に浸潤麻酔日とコントロール日をランダムに割り当てた.実験説明日は実験内容の説明と実験環境への順応を目的とした.コントロール日と浸潤麻酔日は同一時刻に実験を開始し,被検者を水平位にて10分間安静に保った後2分間の唾液採取と8分間の安静期間を交互に6回繰り返した.浸潤麻酔日においては,2回目の唾液採取直前である,安静開始後19分15秒から45秒までの30秒間,上顎中切歯歯肉頬移行部に浸潤麻酔を行った.採取した唾液は直ちに-50℃にて凍結し,ホルモン濃度を測定するまで保存した.濃度分析は凍結した唾液を解凍した後,3000rpmで30分間遠心分離し,EIA法にて測定した.統計解析として,危険率10%で浸潤麻酔の有無および時間を因子とした反復測定分散分析を行った.また,被検者ごとに異なる変化パターンを統合的に比較するため,各試行における変動係数を求め,危険率10%で浸潤麻酔の有無について対応のあるt検定を行った.分析の結果,歯肉浸潤麻酔による疼痛刺激は唾液中コルチゾール濃度およびクロモグラニンA濃度を上昇させるほど大きなストレスではないことが明らかとなった.また,唾液中コルチゾール濃度の経時的減少は水平位による安静効果がもたらしたと推察された.そして,経時的測定を行った唾液中コルチゾール濃度の変動係数を比較することで,歯肉浸潤麻酔によるストレスを評価できる可能性が示唆された.
著者
上り口 晃成 井上 宏 森本 兼曩
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.66, no.1, pp.48-54, 2003-03-25
参考文献数
27
被引用文献数
7

本研究の目的は,唾液を非侵襲的に採取し,そのコルチゾール濃度を分析することで,歯科処置によるストレス反応に治療内容の詳細な説明と来院の繰り返しが与える影響を検討することにある.被検者は,専門的な医学的知識をもたない者を対象に本研究の主旨を説明し,実験協力の同意を得たボランティア18名(男性16名,女性2名,平均年齢20.3歳)を用いた.実験手順として,まず被検者を診療室に入室させ,実験の説明を行い,同意を再確認した.説明群には実験器具をすべて見せながら詳細な手順を説日し,非説明には実験の概略のみを説明した.次に,SpielbergerのSTATE-TRAIT ANXIETY INVENTORY(以後STAIとする)および不安に関するVisual Analogue Scale(以後VASとする)を記入させた.そして水平位にて歯科処置を行い,唾液を採取し,再度VAS、STAIを記録した.歯科処置として,□腔内診査,上顎中切歯部歯肉への浸潤麻酔,下顎歯列の超音波スケーリング,上顎のアルジネートによる印象採得を順に行った.統計解析の結果,コルチゾール濃度のCV値は,非説明群が説明群と比べて有意に高い値を示した.また,非説明群において第1日目のCV値が高<,第2日目にかけて減少する傾向がみられた.STAIの状態不安スコアに関しては開始時が終了時よリ,また第1日目が第2日目より有意に高い値を示した.不安に開するVAS値は説明の有無と来院回数間に交互作用がみられ,非説明群において第1日目が第2日目よリも有意に高い不安VAS値を示した.さらに,不安に関するVAS値と疼痛に関するVAS値はともに同一処置への来院の繰り返しによって低下することが示された.以上の結果から、歯科処置によって生じるストレス反応は,来院回数によって慣れが生じて減少するとともに,ストレスの軽減には詳細な処置内容の説明が有効であることが明らかとなった.