著者
福島 卓司 畦崎 泰男 井上 宏
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.195-200, 2004-06-25
被引用文献数
6

歯科診療時に日常的に行われる処置に患者はストレスを感じているが,そのストレス軽減のためにはインフォームドコンセントや信頼形成が必要とされている.今回の研究目的は,歯科診療処置の繰返し経験が,患者の自律神経活動にどのような影響を与えるかを検討することである.方法 歯科浸潤麻酔と印象採得を疼痛を伴う処置と不快感を伴う処置として選択して負荷ストレッサーとした.被験者5名に1週間隔でこの試行を計3回繰り返して行った.実験中は心電図をモニターし,心拍数と共に,R-R間隔のパワースペクトルから低周波成分(LF:0.04-0.15Hz)および高周波成分(HF:0.15-0.40Hz)の積分値を算出し,その比(LF/HF)を交感神経活動の指標とした.各条件での心拍数とLF/HFの変化は繰り返しのある二元分散分析による解析を行った.1.歯科浸潤麻酔は1回目から3回目にいたるまで開始合図に対して麻酔中は心拍数が低下,麻酔後は上昇した.しかし試行回数を重ねるにしたがって合図時は減少して安静時に近づくのに対して,麻酔中,麻酔後には回数を重ねることによる差は認められなかった.LF/HFでは麻酔中の値に,繰り返しによる差は認められなかった.2.印象採得は1回目2回目は開始合図に対して印象中の心拍数は低下し,印象撤去後は上昇するが,3回目では差は認められなかった.また回数を重ねると,合図,印象時,印象撤去後は安看割犬態に近づく傾向が認められた.LF/HFでは印象中は上昇するが,繰り返しにより安静時に近づいた.以上の結果から,痛みを伴うストレッサーに対しては繰り返しによる交感神経活動の低下がみられず,痛みを伴わないストレッサーに対しては,繰り返しによる交感神経活動の低下と安定化が認められ,ストレスに対する慣れがうかがわれた.
著者
上り口 晃成 青木 誠喜 森田 真功 田畑 勝彦 畦崎 泰男 前田 照太 井上 宏
出版者
大阪歯科学会
雑誌
歯科医学 (ISSN:00306150)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.248-254, 2002-12-25
被引用文献数
10

我々は唾液を経時的に採取しつつ,歯肉浸潤麻酔を行う試行と行わない試行を設定し,唾液中ストレスホルモンであるコルチゾールおよびクロモグラニンAの濃度変化を分析することで,疼痛刺激が唾液中ストレスホルモン濃度に与える影響を検討した.被検者として,健康な健常有歯顎者8名を用いた.実験は3日間行い,1日目は実験説明日とし,2日目と3日目に浸潤麻酔日とコントロール日をランダムに割り当てた.実験説明日は実験内容の説明と実験環境への順応を目的とした.コントロール日と浸潤麻酔日は同一時刻に実験を開始し,被検者を水平位にて10分間安静に保った後2分間の唾液採取と8分間の安静期間を交互に6回繰り返した.浸潤麻酔日においては,2回目の唾液採取直前である,安静開始後19分15秒から45秒までの30秒間,上顎中切歯歯肉頬移行部に浸潤麻酔を行った.採取した唾液は直ちに-50℃にて凍結し,ホルモン濃度を測定するまで保存した.濃度分析は凍結した唾液を解凍した後,3000rpmで30分間遠心分離し,EIA法にて測定した.統計解析として,危険率10%で浸潤麻酔の有無および時間を因子とした反復測定分散分析を行った.また,被検者ごとに異なる変化パターンを統合的に比較するため,各試行における変動係数を求め,危険率10%で浸潤麻酔の有無について対応のあるt検定を行った.分析の結果,歯肉浸潤麻酔による疼痛刺激は唾液中コルチゾール濃度およびクロモグラニンA濃度を上昇させるほど大きなストレスではないことが明らかとなった.また,唾液中コルチゾール濃度の経時的減少は水平位による安静効果がもたらしたと推察された.そして,経時的測定を行った唾液中コルチゾール濃度の変動係数を比較することで,歯肉浸潤麻酔によるストレスを評価できる可能性が示唆された.