著者
神原 廣二 上村 春樹 柳 哲雄
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

インドネシアは群島国であり,島によって住む民族が異なるようにマラリア流行様式も島によって異なるだけでなく,1つの島の中でも地域によって異なる。この多様性を生み出しているのは媒介蚊の種を決定する自然環境であり,人間側の生活習慣,貧困であった。しかし現在の社会経済の発達は流行地図,様式を大きく変動させている。都市化はこの地域でのマラリアを撲滅へと導いている。この典型がジャワ島やバリ島であり,私達が調査を行なったロンボク・スンバワ島においても,これまで重要な流行をもたらしていた沿岸マラリアは,経済発達のためロンボク島では一部の未開発地域を残して減少,消滅へと向かっている。ところが人口増加,社会経済活動の変化は,海岸のすぐ背後に控える森林丘陵地帯へと人々の生活圏を拡大させた。ロンボク調査地では今やマラリア流行は森林部でこれらの人々の間で起きていることが判明した。同じようなことがスンバワ島南部の新しい入植地で起きていた。どのような条件が入植地でのマラリア流行を引き起こしたのかは現在調査中であるが,旧村落から遠く離れた三つの入植地で高いマラリア流行が起きていることが発見された。すべてに共通して言えることは,マラリア流行地は医療の手の及ばないところに発生することである。興味あることは,これまでマラリア免疫は高度流行地での繰り返し感染によってのみ獲得されるという教科書的考えがここではあてはまらないことである。ロンボク森林丘陵部のマラリア流行は中等度であるにかかわらず,10才を超えるとマラリアに抵抗できる免疫を獲得すること,新しい入植地でも入植後7〜8年を経た村では15才以上の成人には抗マラリア免疫があることが明らかになってきた。いずれの地域でも熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性関連遺伝子のひとつpfcrtは100%の耐性変異,もうひとつのpfmdr-1は50%を越す耐性変異を示した。