著者
ムハンド ピーター 柳 哲雄 福間 利英 中澤 秀介 神原 廣二
出版者
長崎大学熱帯医学研究所
雑誌
熱帯医学 Tropical medicine (ISSN:03855643)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.27-36, 1987-03-31

Trypanosoma brucei gambiense (Tg) Wellcome株の培養に,侍養細胞としてICRマウス新生仔由来細胞を用いると,新しく分離された脳及び筋由来細胞はTgの増殖をたすけるが,分離後40日を経過し,増殖が確立した脳及び筋由来細胞は侍養細胞としての能力を失う.新しく分離された細胞でも腎由来細胞はTgの増殖をたすけない.Tgを侍養するか否かに関して増殖因子の有無について検討した.Tgを侍養する細胞を培養皿の半面に,他の半面に侍養しない細胞を播いて,その上でTgを培養したところ,前者の側でのみTgは増殖した.増殖速度の速い細胞はトリパノソーマの侍養細胞として適してないという報告があるので,上記の細胞に,その増殖を抑制するに足る最少量のX線を照射してから,侍養細胞として用いてみたが,Tgの増殖をたすけることに関して変化は認められなかった.Tgが高率に増殖する系では,Tgは侍養細胞の上に,あるいは細胞間にはいって,極めて密に接触した状態で増殖する.以上のことにより,侍養細胞から増殖因子が出ているのではない(出ているとしても限局された近傍でのみ有効)と考えられ,ただ細胞の増殖速度が遅いことだけでなく,細胞とTgとの間に密な接触をもたらすことがTgの増殖を推進するのに必要であると考えられる.
著者
神原 廣二
出版者
長崎大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1991

クルーズトリパノソーマの感染哺乳類中の非増殖型トリポマスチゴートは体液中に孤立するため,多くの生残機能を発達させている。一つの手段として筋肉細胞をはじめとする宿主細胞に侵入して増殖型に変化する。したがって侵入は早ければ早い程原虫にとって宿主の攻撃をまぬがれることになるが,種の維持のためには昆虫(サシガメ)に吸血され昆虫内発育をする必要がある。このためには他方で血流中での長期生存機能を発達させねばならない。私達は牛血清アルブミンを含む低pHのMEM中で,トリポマスチゴートがすみやかにアマスチゴートに変化することを認め,この系を用いて形態維持因子を検出しようとした。まず低pH条件で促進される形態変化が原虫にとって生理学的なものであることを証明するため,電子顕微鏡による観察を用い,キネトプラスト構造を中心とする変化が,非増殖型から増殖型に向かう典型的な生理変化であることを示した。さらにイミュノブロッティングを用いて副鞭毛蛋白がこの変化に伴い消失することから,アマスチゴートへの変化であることを示した。トリポマスチゴートは中性条件においても血清または血清アルブミンの共存なしには生残できない。この原因は私達がこれまで考えてきたトリボマスチゴートから分離される細胞膜溶解物質の中和によるのでなく,アルブミンまたは他の血清成分はトリポマスチゴートの膜構成の安定化に必要であるためらしい。いくつかの血清成分の形態維持作用が調べられたが有意な効果を認めない。形態変化に伴いいくつかの蛋白が失われるが,このうちトランスシアリダーゼは早く消失するものの1つである。各種の細胞内情報伝達に影響を与える試薬の形態変化に対する影響を調べてみると,オカダ酸,KT5720に形態変化促進作用がある。このことと形態維持因子がいかにかかわっているのか,果して形態維持因子が特定できるのかは今後の問題である。
著者
神原 廣二 上村 春樹 柳 哲雄
出版者
長崎大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2004

インドネシアは群島国であり,島によって住む民族が異なるようにマラリア流行様式も島によって異なるだけでなく,1つの島の中でも地域によって異なる。この多様性を生み出しているのは媒介蚊の種を決定する自然環境であり,人間側の生活習慣,貧困であった。しかし現在の社会経済の発達は流行地図,様式を大きく変動させている。都市化はこの地域でのマラリアを撲滅へと導いている。この典型がジャワ島やバリ島であり,私達が調査を行なったロンボク・スンバワ島においても,これまで重要な流行をもたらしていた沿岸マラリアは,経済発達のためロンボク島では一部の未開発地域を残して減少,消滅へと向かっている。ところが人口増加,社会経済活動の変化は,海岸のすぐ背後に控える森林丘陵地帯へと人々の生活圏を拡大させた。ロンボク調査地では今やマラリア流行は森林部でこれらの人々の間で起きていることが判明した。同じようなことがスンバワ島南部の新しい入植地で起きていた。どのような条件が入植地でのマラリア流行を引き起こしたのかは現在調査中であるが,旧村落から遠く離れた三つの入植地で高いマラリア流行が起きていることが発見された。すべてに共通して言えることは,マラリア流行地は医療の手の及ばないところに発生することである。興味あることは,これまでマラリア免疫は高度流行地での繰り返し感染によってのみ獲得されるという教科書的考えがここではあてはまらないことである。ロンボク森林丘陵部のマラリア流行は中等度であるにかかわらず,10才を超えるとマラリアに抵抗できる免疫を獲得すること,新しい入植地でも入植後7〜8年を経た村では15才以上の成人には抗マラリア免疫があることが明らかになってきた。いずれの地域でも熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性関連遺伝子のひとつpfcrtは100%の耐性変異,もうひとつのpfmdr-1は50%を越す耐性変異を示した。