著者
上野 太郎 粂 和彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.129, no.6, pp.408-412, 2007 (Released:2007-06-14)
参考文献数
18

睡眠は動物界において広く観察される生理現象であり,睡眠覚醒制御は概日周期の出力系として最も重要なものの一つである.従来,睡眠が体内時計に制御されていること,および体内時計の遺伝子は哺乳類と昆虫間で保存されていることが示されていた.ショウジョウバエは1日のうち,約70%の時間をじっと動かない状態で過ごす.また,この静止状態は行動学上,哺乳類の睡眠に特徴的な様々な側面を併せもつことより,ショウジョウバエに睡眠類似行動が存在するということが示されている.ショウジョウバエはその生物学的特徴により,遺伝学的解析に広く用いられており,ショウジョウバエにおける睡眠類似行動の発見は,睡眠の分子生物学を推進する要因となった.ショウジョウバエを用いた睡眠の遺伝学的解析により,睡眠時間を規定する遺伝子が同定され,また睡眠を調節する脳内構造についても研究が進んでいる.本稿では,ショウジョウバエを用いた睡眠の分子生物学的研究について概観する.
著者
本橋 智光 平野 友信 奥村 恒介 樫山 真紀子 市川 太祐 上野 太郎
雑誌
デジタルプラクティス (ISSN:21884390)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.576-587, 2019-07-15

ブロックチェーン技術は非金融領域を含む幅広い分野への応用が期待され,データ駆動型社会を実現するための基盤技術となりうるものである.医療分野においては,社会保障費の急増や超高齢社会といった社会課題とともに,臨床試験データの改ざんや高額医薬品の問題が顕在化している.我々は,これまでにソフトウェア医療機器の承認を目指した不眠症治療用デジタル医療の開発を行い,規制当局の監督の下,臨床試験と治験を進めてきた.その中で,ブロックチェーン技術を活用した治験プラットフォームを開発することで上記課題を解決することに取り組み,実証試験と技術開発を重ねてきた.本稿では,医療分野における課題とブロックチェーン技術の医療応用の現状について概観するとともに,我々の取り組み事例を紹介する.
著者
上野 太郎 伊藤 誠 小川 潤 青山 敦
出版者
公益社団法人 日本生体医工学会
雑誌
生体医工学 (ISSN:1347443X)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.S310, 2018

<p>前庭感覚系は, 体の傾きを察知するのに重要な役割を担っており,視覚系を始めとする複数の感覚系から情報を受け取っている.しかしながら, 前庭感覚系を調べる脳計測実験を設計するのは技術的に難しく,前庭感覚情報と視覚情報の相互作用については不明な点が多い.そこで本研究では,前庭感覚入力を操作するために反転台,前庭感覚入力の手掛かりを視覚的に与えないために Virtual Reality (VR) Display を使用し,反転台によって実験協力者の体勢を変えた上で VR Display を介した落下映像に対する脳波の計測を行った.事象関連電位解析において,視覚的な落下方向に関わらず, 倒立状態では直立状態と比較して落下開始後 100-200 ms から 視覚活動の減衰が確認された. また,Granger Causality 解析において,頭頂前庭領域から視覚領域への有意なコネクションが確認された.以上の結果により,異常な前庭感覚情報によって視覚活動が抑制され,視覚処理の比較的早い段階から視覚と前庭感覚の相互作用が始まることが示唆された.</p>
著者
上野 太郎 粂 和彦
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.145, no.3, pp.134-139, 2015 (Released:2015-03-10)
参考文献数
23

睡眠の基礎研究は古くから哺乳類を中心に行われ,その評価は脳波により生理学的に判定されてきた.近年,遺伝学のモデル動物として広く用いられるショウジョウバエにおいて,行動学的な睡眠が定義されることにより,睡眠の分子生物学が発展している.ショウジョウバエを用いた睡眠研究により,睡眠制御の分子メカニズムが昆虫と哺乳類で共通していることが示され,豊富な遺伝学的ツールを用いることで睡眠を制御する神経回路が同定されてきている.我々は,ドパミンの再取り込みを担うドパミントランスポーターの変異体(fumin変異体)が短時間睡眠を示すことを発見し,ショウジョウバエにおいてドパミンシグナルが哺乳類と同様に睡眠覚醒を制御することを明らかにしてきた.ドパミンは睡眠覚醒や学習記憶など様々な生理機能をもつが,それら複数の生理機能がどのようにして実現されているかはこれまで不明であった.ショウジョウバエの遺伝学を駆使することにより,独立したドパミン神経回路が学習記憶と睡眠覚醒を制御することが一細胞レベルで明らかにされた.ドパミンはシナプス終末から放出されると古典的なシナプス伝達に加えて,拡散性伝達により,神経間情報伝達を行うことが知られている.ドパミンの再取り込みを担うドパミントランスポーターに注目し,睡眠ならびに記憶の表現型を解析することにより,ドパミントランスポーターによる拡散性伝達制御が明らかになった.本総説では我々がこれまで明らかにしてきたドパミンによるショウジョウバエの睡眠制御機構について解説する.これまでに明らかになった睡眠の分子基盤・神経基盤をもとに,進化的に保存されてきた睡眠の共通原理の解明が進むと考えられる.