- 著者
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平沢 良和
山本 浩基
上野 順也
尾崎 泰
藤盛 嵩浩
好井 覚
- 出版者
- 公益社団法人 日本理学療法士協会
- 雑誌
- 理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
- 巻号頁・発行日
- pp.CbPI1211, 2011 (Released:2011-05-26)
【目的】異所性骨化とは、通常骨化の起こらない組織に新生骨が発生する異常骨化現象である。整形外科やリハビリテーションの領域では、外傷後の拘縮した筋に関節可動域(Range of Motion;ROM)改善のための強制的外力が過度に加わった時に生じる化骨性筋炎として経験的に知られている。異所性骨化を併発すると、一旦運動療法を中止して局所の安静を図る必要があり、ROM制限の原因となることが多い。しかし、異所性骨化の診断には一般的に単純X線検査が用いられるため、X線像では軟部組織の評価は困難であり、異所性骨化がROMに及ぼす病態について不明である。今回、我々は異所性骨化を合併した大腿骨顆上骨折に対し、超音波検査(Ultrasonography;US)を行い、運動療法を継続した結果、正座が可能となるまで回復した症例を経験した。本研究の目的は、今回実施したUSでの異所性骨化の経時的変化について報告することである。【方法】対象は右大腿骨顆上骨折(AO/ASIF分類C1型)と診断された60歳代女性である。観血的整復内固定術(Zimmer NCB distal femoral plating system)後、膝蓋骨上内方に認めた腫瘤に対しUSを実施した。USにはGEヘルスケア社製LOGIQ9および10MHzリニアプローブを使用した。測定肢位は端坐位とし、測定部位は膝蓋骨直上から大腿骨長軸に近位へ5cm、内側へ3cmの部位で、腫瘤がプローブの中心となるように長軸走査を行った。大腿骨が鮮明に描出されるようにプローブの角度を調整し、膝関節屈曲-伸展の自動運動時の動態を撮像した。撮像した動画より腫瘤部の動態について定性的に観察を行った。測定は術後1ヵ月、術後2ヶ月、術後3ヵ月、術後7ヵ月に実施した。【説明と同意】対象には本研究の趣旨を説明し同意を得た上で実施した。【結果】術後1ヵ月のUSでは、腫瘤は高エコー像と低エコー像が混在する血腫であり大腿四頭筋との癒着を認めた。また血腫内部には音響陰影を伴う高輝度エコー像を認め、膝関節屈曲-伸展に応じて可動性を有していた。術後2ヵ月のUSでは血腫は骨化し、大腿骨との連続性を認めた。血腫と大腿四頭筋との癒着は剥離され、大腿四頭筋の滑走を認めていた。術後3ヵ月、術後7カ月のUSでは異所性骨化は経時的に縮小していた。【考察】異所性骨化の発生過程において、NicholasまたはKewalramaniらが述べる急性期の段階では、X線像での骨化は陰性であり、局所の腫脹、発赤、熱感やROM制限などの理学所見と、赤血球沈降速度、アルカリホスファターゼやクレアチニンホスホキナーゼなどの血液データが早期診断の指標となる。本症例では、局所の腫脹、熱感やROM制限を呈し、膝関節屈曲時に疼痛を認めたが、血液データによる評価は行われていなかった。後方視的にX線像を精査すると、術後1ヵ月の時点でわずかではあるが腫瘤部に仮骨形成を認めており、USでも血腫内部に仮骨と思われる音響陰影を伴う高輝度エコー像を認めた。しかし、当時はUSでの異所性骨化の動態に関する報告がなく、術後1ヵ月の時点では異所性骨化と判断できず、血腫が大腿四頭筋に癒着したものと考え、癒着剥離目的に大腿四頭筋の滑走を主眼とした膝関節屈曲-伸展の自動運動を継続した。術後2ヵ月のX線像では異所性骨化の形成を確認できたが、USでは大腿四頭筋と異所性骨化の癒着は剥離されており、また熱感や疼痛は消失しROMも拡大傾向であったため運動療法を継続した。機械的刺激が骨形成を促進すると考えられるため、異所性骨化の発生部位が関節運動により機械的刺激が加わるかどうかの判断が重要となる。術後1ヵ月では、仮骨を含む血腫は大腿四頭筋に癒着しており関節運動に伴い機械的刺激が加わり、骨形成を促進した可能性がある。術後2ヵ月では、X線像では異所性骨化を呈していたが、USでは大腿四頭筋などの軟部組織外に異所性骨化を認め、機械的刺激が加わらないと判断し、通常の大腿骨顆上骨折の運動療法を継続した。異所性骨化は経時的に吸収され術後1年のX線像では消失しており、運動療法を継続することで増悪することはなかった。本症例のX線像での異所性骨化は、USではKewalramaniが述べるcontiguous to boneであり、運動療法を継続することに問題はなかったと考える。【理学療法学研究としての意義】USでは軟部組織の動態観察が可能であり、異所性骨化の早期発見および発生部位を把握する上で非常に有用である。X線像だけで運動療法の中止を判断するのではなく、USにて異所性骨化の関節運動に伴う動態を判断した上で運動療法の適否を決定する必要がある。