著者
尾崎 新平 草場 正彦 植田 耕造 宮本 定治 恵飛須 俊彦
出版者
Japanese Society for Electrophysical Agents in Physical Therapy
雑誌
物理療法科学 (ISSN:21889805)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.32-36, 2017 (Released:2022-09-03)
参考文献数
14
被引用文献数
1

Lateropulsion は,脳幹損傷後で起こる左右方向の姿勢制御障害として報告されているが,介入報告はほとんど見当たらない.近年,介入として直流前庭電気刺激(GVS)が注目されている.今回,lateropulsionを呈した一症例にGVSを実施し,即時効果を検証した.症例は60歳代の男性で,診断名は脳梗塞(小脳,橋,中脳).実験デザインは,シングルケースデザインの操作交代デザインを使用した.刺激条件とControl条件を5回ずつ乱数表に基づいてランダムに実施し,各々の条件中の足圧中心(COP)動揺を重心動揺計で計測した.解析方法は,randomization検定を用い,刺激条件とControl条件でCOP変数を比較した.評価時期は発症から38日目に実施し,計測は1日のみで即時効果を判定した.結果は,左に偏倚していた重心位置がGVS中ほぼ正中になり,GVSの即時効果があることが示された.
著者
井上 大輔 宮本 定治 惠飛須 俊彦 藤尾 圭司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.H2-193_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】腰椎椎間板ヘルニア(LDH)患者では多裂筋の組織学的変化が報告され、罹患側にて萎縮が生じる可能性が示されている。一方、MRI画像を用いて多裂筋の萎縮を示した報告も散見されるが、罹患高位と萎縮が生じる明確な部位については一定の見解が得られていない。また、多裂筋を除く傍脊柱筋を検討した研究は少なく、ヘルニアが傍脊柱筋に及ぼす影響は不明である。本研究の目的はLDH患者において傍脊柱筋の筋断面積(CSA)を測定し、罹患高位と萎縮との関連性を明らかにすることである。【方法】対象は 2013年4月から2018年4月に当院整形外科を受診した腰痛を有するLDH患者63名(L4-5:32名、L5-S1:31名、年齢36.8±8.3歳、罹病期間3.4±4.0ヶ月)であった。両側性の下肢症状、多椎間のヘルニア、腰部の手術既往を有する者などは除外した。CSAはMRI画像にてCraigらの報告に準じ、L1からL5の下部椎骨終板およびL5からS1の上部椎骨終板の計7スライスを用い、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋、多裂筋を罹患側と非罹患側で計測した。得られた各CSAはL4上縁椎体面積で除し正規化した。統計処理は、各スライスの罹患側と非罹患側におけるCSAの比較をMann-WhitneyのU検定およびχ2適合度検定を用い、有意水準は5%とした。【結果】L4-5ヘルニア患者ではL4、L5上縁、L5下縁、S1で、L5-S1ヘルニア患者ではL5上縁、L5下縁、S1で罹患側の多裂筋CSAは非罹患側と比較して有意に低値を示した(p<0.05)。また、L4-5ヘルニア患者ではL4、L5上縁、L5下縁、S1で、L5-S1ヘルニア患者ではL5上縁、L5下縁、S1で罹患側の多裂筋が萎縮している割合が有意に高かった(p<0.01)。一方、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋は全てのスライスにて罹患側と非罹患側で有意差を認めなかった。【結論(考察も含む)】L4-5およびL5-S1ヘルニア患者において罹患側の多裂筋に萎縮を認めた。多裂筋は棘突起と同高位の脊髄神経後枝内側枝から分節性に神経支配を受けるため、罹患高位に一致した萎縮が生じた可能性がある。LDH患者では多裂筋の筋線維サイズが罹患側で有意に減少すると報告されており、MRI画像上のCSAにおいても組織学的変化が反映されたと考えられた。また、本研究では罹患高位に隣接する多裂筋にも萎縮を認めた。対象者は全例で腰痛を有しており、不活動やreflex inhibitionにより萎縮が生じた可能性がある。一方、大腰筋、腰方形筋、脊柱起立筋は筋の形状や神経分布形態などの観点からヘルニアの影響は受けにくいと推察された。今回の検討により、腰痛を有する単椎間のLDH患者は、罹患側の罹患高位および隣接椎体の多裂筋に萎縮が生じる可能性が示唆された。【倫理的配慮,説明と同意】本発表はヘルシンキ宣言を遵守し、当院倫理審査委員会の承認(承認番号:第30-60号)を得ている。
著者
山本 浩基 上野 順也 平沢 良和 藤盛 嵩広 宮本 定治 好井 覚
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C4P1144, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】大胸筋不全断裂は比較的稀な疾患である。今回、大胸筋不全断裂の理学療法を経験し良好な結果が得られたので考察を加え報告する【方法】症例は60歳代、男性、製造業、バレーボール指導者、左利きである。勤務中にローラーに右腕を巻き込まれ、右尺骨骨幹部骨折、前腕筋断裂と同時に腋窩皮膚裂創、大胸筋鎖骨部繊維遠位の筋腱移行部に近い筋腹の不全断裂を受傷した。手術は断裂部を2号PDS糸でマットレス縫合した。術後より固定は三角巾とバストバンドにて肩関節内転、内旋位とし患部以外の運動を開始した。術後2週より肩関節内転、内旋位での他動屈曲運動開始、術後4週で固定を除去し自動介助での水平内転運動を開始、術後8週より鎖骨部繊維を含む大胸筋への積極的な筋力増強運動を開始、術後12週で可動範囲および筋力に改善を認め理学療法終了となった。筋力改善の指標として、乳頭部胸囲と超音波画像診断装置SONOLINE G60S(SIMENS社製)を使用し、鎖骨内側2/3の直下で大胸筋鎖骨部繊維の筋厚を健側と比較した。【説明と同意】本発表の内容を詳細に本人に説明し同意を得た。【結果】肩関節可動域は術後4週で屈曲140°、伸展40°、外転80°、水平伸展5°、第1肢位外旋60°、第2肢位外旋20°、肩関節屈曲90度での外旋(以下、第3肢位外旋)5°。8週で屈曲175°伸展50°外転180°水平伸展30°第1肢位外旋60°、第2肢位外旋60°第3肢位外旋10°。12週で正常可動範囲を獲得、乳頭の位置に左右差を認めず、胸囲は4週の101.2cmから12週で103.7cmと2.5cmの拡大を認めた。超音波画像診断装置による大胸筋鎖骨部繊維の筋厚は12週で健側6.9mm患側6.8mmとなった。【考察】大胸筋不全断裂は稀な疾患である。我々が渉猟しえた限りでは不全断裂の手術例についての報告はなく、完全断裂の症例についての報告が本邦で26例あった。26例の報告の中で術後の後療法について述べられた報告は1例のみであった。大胸筋断裂は特に若年者のスポーツによる受傷が多く、断裂部については、筋腱移行部、停止部に頻度が高いと報告されている。高齢者における報告は少ないが、受傷前の活動が低い場合は保存療法でも日常生活に制限をきたすことが少ないとされ保存療法を選択されることが多い。手術例ではpeak torqueが健側比99%まで改善するが、保存例では56%の回復に留まると報告されている。大胸筋断裂は初診時に見逃されることも多く陳旧例となりやすい。陳旧例では断端の瘢痕化や癒着、筋萎縮などの理由から可動範囲、筋力の改善に時間を要する。今回の症例は、腋窩皮膚裂創があり早期に大胸筋断裂と診断され手術を行った症例であり、早期から疼痛を避けて大胸筋鎖骨部繊維を弛緩させた状態で可動域訓練を行った事により可動範囲を確保することができた。筋力の改善においては大胸筋に対してだけでなく、大胸筋の作用と拮抗する筋への筋力維持を行い筋力の不均衡を起こすことのないよう注意する必要があると考えられる。本症例においては橈尺骨骨折及び前腕の筋断裂の治療は継続しておりスポーツへの参加は果たせていないが、更衣動作など大胸筋断裂による日常生活における問題は解消された。【理学療法学研究としての意義】大胸筋不全断裂術後に対する理学療法を経験した。大胸筋不全断裂に対しては早期より安全な肢位で肩関節可動域を確保する為に早期からの理学療法が必要であると考えられる