著者
辻 宏道 畑中 雄樹 佐藤 雄大 古屋 智秋 鈴木 啓 村松 弘規 犬飼 孝明 三木原 香乃 高松 直史 中久喜 智一 藤原 智 今給黎 哲郎 飛田 幹男 矢来 博司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1.背景 国土地理院はGPS等の測位衛星(GNSS)の電波を受信する「電子基準点」を全国約1,300箇所に設置し、そのデータを利用して測量や地殻変動監視を行うとともに、そのデータを公開して測量・測位、防災分野等での活用を推進している。GPSはL1帯(1.57542 GHz)及びL2帯(1.2276 GHz)の信号を送信しているが、近年、準天頂衛星や次世代GPSはL5帯(1.17645 GHz)の信号も送信しており、最新型のGNSS受信機及びアンテナは、従来よりも広い周波数帯に対応した設計となっている。 一方、携帯電話サービスでは、LTEと呼ばれる次世代高速通信サービスが全国で開始されており、この中には1.5 GHz付近の電波を利用するものも含まれる。 2.現象 電子基準点「函館」で、2013年5月から観測される衛星の信号強度(SN比)が低下するとともに、データを解析して得られる電子基準点の高さに、見かけ上の変動(振幅:最大約5 cm、周期:2~3週間)が生じた。現地測量により実際の変動でないことは確認されたが、原因の究明には至らず、当該基準点は公共測量で利用できないように措置した。 その後も、電子基準点「焼津A」で、2014年3月からSN比の低下及び見かけ上の上下変動(振幅:最大約2 cm、周期:2ヶ月)が確認されるなど、2016年2月現在、同様な現象が「函館」以外に13点でも発生している(電子基準点名:「焼津A」、「大阪」、「神奈川川崎」、「石垣2」、「御殿場」、「足立」、「越谷」、「新富」、「大宮」、「楠」、「八郷」、「厚岸」、「指宿」)。いずれも水平変動はなく、上下変動も比較的小さいため、通常の公共測量では利用できるが、GNSS測量による標高の測量を行う場合は利用できない。 地殻変動の研究を行う場合、これらの電子基準点の「日々の座標値」や関連する基線に現れる周期的な上下変動は、実際の変動ではないことに注意が必要である。 3.仮説 これらの電子基準点に共通するのは、1)マルチGNSSに対応した同一機種の受信機及びチョークリング・アンテナを利用していること、2)周辺(概ね1 km以内)に携帯電話基地局があり、SN比の低下が始まった日に1.5 GHz付近の電波を利用するLTEサービスが開始されていることである。このため、GPSのL1帯の隣接周波数帯にあるLTE信号が、従来より広い帯域に感度を持つアンテナに混入し、アンテナや受信機のアンプが飽和する等によりSN比が低下しているとの仮説が成り立つ。しかし、そのデータを基線解析すると上下方向だけに周期的な変動が現れるメカニズムはよくわからない。 4.当面の対応 メーカー提供のL1帯隣接周波数帯の1.5 GHz信号を除去するフィルターをアンテナと受信機間に挿入して、「函館」及び「焼津A」で観測したところ、SN比は現象の発生前には戻らないものの改善が見られ、見かけ上の上下変動は大きく低減した。また、5~10 dBのアッテネータ(減衰器)の挿入によっても、ほぼ同様な効果が見られることを確認している。今後、減衰量の最適値を決定し、見かけ上の上下変動が発生している電子基準点にアッテネータを挿入することを検討している。