著者
藤原 智 宇根 寛 中埜 貴元 矢来 博司 小林 知勝 森下 遊
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2019年大会
巻号頁・発行日
2019-03-14

1.はじめに 2016年熊本地震(M7.3)について「だいち2号」(ALOS-2)のSARデータを用いてその変位を面的に検出している。これらの地表変位の大部分は震源断層の断層運動で説明できるものの、震源断層から離れた場所で断層運動を示唆する線状の変位(リニアメント)が数多く見つかっている(Fujiwara et al., 2016)。 こうした特徴的な変位は、2018年6月の大阪府北部の地震(M6.1)や2018年北海道胆振東部地震(M6.7)でも捉えられており、それぞれの地震で現れた変位の数や変位量等は異なるものの、周辺状況から大地震に付随して発生した「お付き合い地震断層」と呼ぶべきものとなっている。 本講演では、これらのお付き合い地震断層の特徴について報告する。2.お付き合い地震断層に共通する特徴 お付き合い地震断層は、寒川他(1985)が駿河湾西岸南部地域の活断層について示したもので、単独に活動して大きな地震を引き起こしたものではなく、他の大きな地震の結果として断層が動いたもの、という考え方である。 これらのお付き合い地震断層に共通な特徴には下記が挙げられる。(1) 標準的な長さは数kmで、直線もしくはゆるやかな曲線状の変位が連続しており、断層を挟む変位量は数cmから数10cm程度である。(2) 震源断層から離れており、震源断層そのものや直接の分岐断層である可能性は低い。(3) 大きな地震動を出したとする証拠は確認されていない。(4) 自ら動かずに、受動的に動かされたと考えられ、大きな地震の原因ではなく結果としての断層変位が生じたと考えられる。(5) 地形と変位分布に相関があり、その地形的特徴から「活断層」と認識されていたものもあるため、過去から類似の運動が蓄積している可能性がある。(6) 走向や変位の向きは周辺の応力場と整合的である。3.地震毎の特徴3-1)2016年熊本地震(1) 全体で約230本のお付き合い地震断層が確認されており、検出された数が桁違いに多い。(2) 変位の形態は正断層が大部分を占める。(3) 場所ごとに、複数の断層の走向・間隔・深度・変位の向き・変位量等がほぼ一定で揃った「群」を形成している。(4) 九州中部の別府湾から雲仙にかけて、類似した形状の正断層群がいくつか存在しており、九州中部では、類似したお付き合い地震断層が発生してきている可能性がある。(5) 熊本地震の震源断層となった布田川断層帯・日奈久断層帯の断層モデルによるΔCFFでは、お付き合い地震断層の変位の成因を説明できない。3-2)2018年6月18日大阪府北部の地震(1) 有馬-高槻断層帯の真上断層と一致する場所でお付き合い地震断層が認められた。真上断層は1596年慶長伏見地震(M7.5)での変位が確認されている。(2) 右ずれ成分が卓越しているが、地表までずれが到達しているのではなく、ずれ成分の変位は数百mほどの幅をもって広がっている。(3) お付き合い地震断層直上では、南落ちの縦ずれ成分が見られる。(4) 地震前の長期の観測によれば、お付き合い地震断層を含むやや広い範囲が継続的に沈降している。(5) 大阪府北部の地震の本震による地殻変動はお付き合い地震断層以外でも小さく、最大でも数cm程度である。3-3)2018年北海道胆振東部地震(1) お付き合い地震断層を挟んで東西短縮の変位を示し、上下成分はほとんどない。このことから、低角逆断層を形成していることが推定される。(2) 地表面でのトレースが直線ではなく、地形に沿うようなやや複雑な曲線となっており、上記の低角逆断層の性質と整合的である。(3) 現時点で、お付き合い地震断層付近は活断層とは認定されていない。(4) 地震波探査(横倉他,2014)でお付き合い地震断層直下にずれが認められており、伏在断層として存在している可能性がある。
著者
村上 亮 飛田 幹男 矢来 博司 小澤 慎三郎 西村 卓也 中川 弘之 藤原 智
出版者
Tokyo Geographical Society
雑誌
地学雑誌 (ISSN:0022135X)
巻号頁・発行日
vol.109, no.6, pp.944-956, 2000-12-25 (Released:2009-11-12)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

The power of interferometric Synthetic Aperture Radar (SAR) when applied to studies of crustal deformation has been fully demonstrated by Massonnet et al. (1993, 1994) and Zebker et al. (1994) for the Landers, California earthquake of June 28, 1992. This method is unique in its capability of providing a two-dimensional representation of a deformation with a dense spatial coverage over most of the globe. Since 1994, the Geographical Survey Institute (GSI) has been conducting a study on applications of differential InSAR (Interferometric SAR) for the detection of crustal deformations associated with earthquakes and volcanic activities. Crustal deformations of many episodes were mapped by InSAR, such as those due to the 1994 Northridge earthquake, the 1995 Hyogo-ken Nanbu earthquake, the 1995 Neftegorsk earthquake, and volcanic deformations of Mt. Iwate and Mt. Usu. These interferograms played an important role in constructing geophysical models.
著者
矢来 博司 小林 知勝 森下 遊 山田 晋也 三浦 優司 和田 弘人 仲井 博之 山中 雅之 攪上 泰亮 上芝 晴香
出版者
一般社団法人 日本写真測量学会
雑誌
写真測量とリモートセンシング
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.6-11, 2016
被引用文献数
2

噴火に伴う被害の軽減のためには,火山活動のモニタリングが重要である。近年,地殻変動の空間分布を詳細に把握できる利点から,SARを搭載する「だいち2号」の活用が期待されている。この「だいち2号」の干渉SARにより,箱根山や桜島などで火山活動の活発化に伴う地殻変動が捉えられた。箱根山では大涌谷で地殻変動が検出され,継続的な観測により変動の推移が捉えられた。桜島では,捉えられた地殻変動から昭和火口の直下へのマグマ貫入が推定された。これらの情報は火山噴火予知連絡会などに報告され,評価に活用されている。
著者
辻 宏道 畑中 雄樹 佐藤 雄大 古屋 智秋 鈴木 啓 村松 弘規 犬飼 孝明 三木原 香乃 高松 直史 中久喜 智一 藤原 智 今給黎 哲郎 飛田 幹男 矢来 博司
出版者
日本地球惑星科学連合
雑誌
日本地球惑星科学連合2016年大会
巻号頁・発行日
2016-03-10

1.背景 国土地理院はGPS等の測位衛星(GNSS)の電波を受信する「電子基準点」を全国約1,300箇所に設置し、そのデータを利用して測量や地殻変動監視を行うとともに、そのデータを公開して測量・測位、防災分野等での活用を推進している。GPSはL1帯(1.57542 GHz)及びL2帯(1.2276 GHz)の信号を送信しているが、近年、準天頂衛星や次世代GPSはL5帯(1.17645 GHz)の信号も送信しており、最新型のGNSS受信機及びアンテナは、従来よりも広い周波数帯に対応した設計となっている。 一方、携帯電話サービスでは、LTEと呼ばれる次世代高速通信サービスが全国で開始されており、この中には1.5 GHz付近の電波を利用するものも含まれる。 2.現象 電子基準点「函館」で、2013年5月から観測される衛星の信号強度(SN比)が低下するとともに、データを解析して得られる電子基準点の高さに、見かけ上の変動(振幅:最大約5 cm、周期:2~3週間)が生じた。現地測量により実際の変動でないことは確認されたが、原因の究明には至らず、当該基準点は公共測量で利用できないように措置した。 その後も、電子基準点「焼津A」で、2014年3月からSN比の低下及び見かけ上の上下変動(振幅:最大約2 cm、周期:2ヶ月)が確認されるなど、2016年2月現在、同様な現象が「函館」以外に13点でも発生している(電子基準点名:「焼津A」、「大阪」、「神奈川川崎」、「石垣2」、「御殿場」、「足立」、「越谷」、「新富」、「大宮」、「楠」、「八郷」、「厚岸」、「指宿」)。いずれも水平変動はなく、上下変動も比較的小さいため、通常の公共測量では利用できるが、GNSS測量による標高の測量を行う場合は利用できない。 地殻変動の研究を行う場合、これらの電子基準点の「日々の座標値」や関連する基線に現れる周期的な上下変動は、実際の変動ではないことに注意が必要である。 3.仮説 これらの電子基準点に共通するのは、1)マルチGNSSに対応した同一機種の受信機及びチョークリング・アンテナを利用していること、2)周辺(概ね1 km以内)に携帯電話基地局があり、SN比の低下が始まった日に1.5 GHz付近の電波を利用するLTEサービスが開始されていることである。このため、GPSのL1帯の隣接周波数帯にあるLTE信号が、従来より広い帯域に感度を持つアンテナに混入し、アンテナや受信機のアンプが飽和する等によりSN比が低下しているとの仮説が成り立つ。しかし、そのデータを基線解析すると上下方向だけに周期的な変動が現れるメカニズムはよくわからない。 4.当面の対応 メーカー提供のL1帯隣接周波数帯の1.5 GHz信号を除去するフィルターをアンテナと受信機間に挿入して、「函館」及び「焼津A」で観測したところ、SN比は現象の発生前には戻らないものの改善が見られ、見かけ上の上下変動は大きく低減した。また、5~10 dBのアッテネータ(減衰器)の挿入によっても、ほぼ同様な効果が見られることを確認している。今後、減衰量の最適値を決定し、見かけ上の上下変動が発生している電子基準点にアッテネータを挿入することを検討している。
著者
小荒井 衛 宇根 寛 西村 卓也 矢来 博司 飛田 幹男 佐藤 浩
出版者
一般社団法人 日本地質学会
雑誌
地質学雑誌 (ISSN:00167630)
巻号頁・発行日
vol.116, no.11, pp.602-614, 2010 (Released:2011-03-02)
参考文献数
49
被引用文献数
2 5

2007年7月16日に発生した「平成19年(2007年)新潟県中越沖地震(マグニチュード6.8)」について,陸域観測衛星「だいち(ALOS)」に搭載されている合成開口レーダ(PALSAR)による干渉SAR解析を行った.SAR干渉画像は,震源域近くの断層運動による地殻変動のみならず,震源から15 km東に離れた西山丘陵において,活褶曲の向斜軸に沿って幅1.5 km長さ15 kmの帯状隆起域が検出された.筆者らは,これは地震に伴って発生した間欠的な活褶曲の成長を示す直接的な証拠であると考えた.加えてSAR干渉画像は,柏崎市の中心街において,砂丘地盤の液状化や側方流動などの非地震性の地表変動についても検出することが出来た.